私はSFが好きです。SFというとなんとなくとっつきづらそうな気もしてきますが、作家達が想像力の限界を突破して産み出した「未来の話、未来の技術」「将来、こんなことが起こったら面白いよね」という内容が面白くないわけないじゃないですか。良く藤子・F・不二雄はSFを「少し不思議」と訳したとかいいますが、誰しもドラえもんの道具があったら何をするか友人と妄想を語り合った時代があったかと思います。その延長線上に大人が真剣に考える未来があるというのがSF一番の魅力ではないでしょうか?
バーナード嬢曰く。(1)より
分かんなくても面白ければいいんだよ。
しかし、SFは舞台設定の性質上どうしても物騒な展開に転がりがちです。ドンパチは好きだけどドンパチ以外も見たい、セワシくんが普段どんな生活をしてるとかそういうのがみたい!そう思っていた私の目にとまって一瞬でここ5年間くらいの私的ベストシリーズになったのが、肋骨凹介先生の宙に参るです。
あらすじとしては、宇宙旅行がセスナ機と同じくらい身近になった時代に夫を亡くした鵯ソラが息子(AI)とともに義母の元へ遺骨を届けに行くというお話です。
AIとの戦争で荒廃してとか、限りある資源を奪い合い争いを…みたいな未来ではなく、技術は進歩していながらも人の営みはそんなに劇的に変わったりはしていないそんな未来の日常の話です。
夫を亡くしたソラさんはリモート葬儀を開き、市役所でもろもろの手続きを息子と済ませて旅行用の宇宙船に乗り込み地球へと向います。その旅を通して未来の生活がどうなっているのか垣間見えることになります。
技術の進歩がもたらすのは生活の快適さだと思います。どうせなら、「あんなこといいな、できたらいいな♪」が全部できていた方が嬉しくないですか?この本では、そんなあんなこといいながふんだんに描かれています。
たとえば将棋を解くためのスーパーコンピュータを搭載した衛星
気さくな衛星
ロボットが店主を務める宇宙を股にかけたおでん屋チェーン店
通うと会員ランクに応じた裏メニューとか食べられる。
死してなお曲をリリースする伝説のロックバンド
ちょいちょい気になる感じの未来の資格
個人の味覚に対して最適化した料理を提供する高級レストラン等など
AIが3Dプリンターで出力した高級謎料理
掘り下げるだけで本が一冊できそうな設定の数々。それが1話、時には数ページで描かれる贅沢さがたまらない。これって実はこういうこと?と思う瞬間が多数あって何度も何度も繰り返し読んでしまいます。
非破壊検査が元ネタなのかな?
AIが作る新作落語めっちゃ聴きたい。
また、そういったワクワクする細かいネタ以外に、物語を通して描かれているのがAIと人間の関わりです。この漫画ではリンジンと呼ばれているAIがあります。その名の通り、召使いではなく互いに支え合うような関係性となっています。主人公、鵯ソラの息子、宙二郎もこのリンジンです。
父親似らしい、かわいい。
・リンジンは周りの人間の幸福度が高くなるように行動する。
・リンジンは、記憶が増えていくと行動する際の判断が遅くなり、この判断時間がある一定を超えると判断摩擦限界として死を迎える。
などといった特性があります。現代でも機械は忘れることができない(記録の重要度の軽重の判断が難しい)とされていますが、人間と深く関わるようになった未来ではより顕著にその特性が現れているのでしょうか?
リンジンの死、記憶の一部は受け継がれるが人格は変わる。
過去であれ、未来であれ生活に違いはあれど人の思いはそう変わるものではないと思います。様々な楽しみがあり、出会いがあり別れがある。AIの発達に伴い、AIが道具から我々のリンジンとなった未来。その設定や描き方が秀逸な漫画です。
といってもノリは軽く、さらっと読めるのと既刊も2巻でリーズナブルなお値段です。
現在はトーチWEBで連載中で1話からの数話と最新話付近の複数の話を読むことができます。
http://to-ti.in/product/sora_ni
興味が出たら是非手に取っていただきたいです。
また、作者であります肋骨凹介さんは元々WEBでも多数の漫画を描いてアップしていました。
https://togetter.com/li/746063
知らないタイプの人、1枚完結
その他多数の漫画
宙に参るを買う前に雰囲気が掴めるかもしれません。全体的に脱力系な雰囲気が好きです。