読んだら寝る

好きな作家、本、マンガについて紹介

民俗学と酒とカレーと美術品〜北森鴻さん

 田舎が好きです。私が田舎出身であるということもありますが、廃墟やひなびた温泉街の昭和から変わらない町並みみたいなやつが大好きです。田舎に行くとちょっとタイムスリップしたみたいで楽しくなりませんか?令和なのに昭和の風景を見られるというだけでちょっとお得感があります。令和になって昭和は二世代跨いでるみたいなイメージとなりましたね、平成じゃこうはいきません。令和バンザイですね。

 現代の田舎で、排他的な村(島)で謎の儀式やってたり、よくわからない地蔵飾られてたり、変なわらべうたあったりとかそういうのってもうどこにも無いじゃないですか?どこもネット繋がってるし、どんな田舎にでもパチンコやコンビニはあるし。でもこういうあるあるが考えられるくらいには共通認識でヤバい田舎像って固まってるの面白いですよね。だからこそそういうのをパロディにしたドラマ「トリック」とか楽しめるわけで。

 

こんな田舎ねぇよ!の代名詞、トリック。田舎描写と謎の宗教描写がたのしい。

 

 現実には無い、田舎の在りし日の姿をちょっと垣間見れるのって言い伝えだったり、土地のちょっとしたほこらや行事だったりするじゃないですか?昨年、祖母に息子の夜泣きについて相談したとき「逆さに描いた鳥の絵を台所に飾れ」って言われたとき育児のコツとかじゃなくてまじない出てきたよとちょっと嬉しくなりました。

 そんな地方のシュールな一面ではなく、皆さんのイメージするヤバい田舎っぽいのを対象とした民俗学の一端を垣間見れる素敵な作家といえば、北森鴻先生です。

 北森鴻先生の代表作といえば蓮丈那智フィールドファイルシリーズ。異端の民俗学者蓮丈那智(美人)とその講座の助手内藤三國が様々な村でフィールドワークを行いつつついでに殺人事件を解決するという、2時間ドラマにぴったりな雰囲気の短編集です。

歴史+ミステリーと比べて意外と無い民俗学+ミステリー。

 

民俗学なので、ここの村にはこういう伝承が、とかこんな儀式が、みたいなのを調査して行くわけですが、その解釈は実在の資料に基づいていたりします。もちろん架空の県の架空の儀式です。このシリーズの白眉としてはミステリーなので様々な言い伝えなんかを再解釈したあと結論付ける点です。

 実際の言い伝えなんかは謎なままの物も多いわけです。そこには解決編が無いのでどうしてもスッキリしない。

(うちの地元にあった瓜生島伝説、いまいち定まってないからもやもやが残る。)

 

 つまり気軽に村の因習の雰囲気を味わえてスッキリできるわけです!ついでにおまけのように、そんなに美人なキャラにする必要ある?というくらい美人な設定の助教授とドキドキする展開(犯人に襲撃されたり)も挟んで飽きずに読めるのです。ありそうだけど無いものをリアルに描く作品って素敵ですよね。北森鴻さんの作品の面白いところはそれに尽きると思います。

 

 他にも、旗師宇佐見陶子が美術品や骨董品を巡るトラブルに巻き込まれつつ真実を明らかにしたり、自分を嵌めた相手に復讐をしたりする旗師冬狐堂シリーズ。

 

 

 

 美味しそうな料理とその料理の間に起こる様々な事件の謎を解き明かす連作短編、メインディッシュ

ワンコインで作られるめちゃくちゃ旨いカレーの謎や、とあるお大尽の家での出張演劇公演での謎、駅に近いほど弁当が保存食寄りになり美味しくなくなる説など料理を題材にしたミステリー。総じて謎の居候ミケさんの料理が旨そう。

 

 ビアバー主人工藤の安楽椅子探偵ぶりが冴えわたる香菜里屋シリーズ。正直ミステリーとしての完成度もさることながら、「今日はちょっと変わった食べ方を〜」と提供される料理、酒がすべて美味しそう。

 

 ちょっとアンダーグラウンドな主人公と京都の謎に迫る裏京都ミステリーシリーズ。

 

 

 デパートの屋上にある安いのにほかじゃ食べられないような美味しいうどんを出す店主とそれを見守る物達の連作ミステリー、屋上物語。

 

 安くて美味そうなうどんの描写がいい。

 

 歴史物もハードな物から

 

 コメディタッチのものまで、

 

 多数の著作がありよりどりみどりです。

 

 1冊完結が多くて手に取りやすいという点と、個性的で漫画やドラマになっても向いてそうなキャラクターが多数おり、気軽に楽しめるかと思います。惜しむらくは、作者の北森鴻さんが10年ほど前に夭逝され、様々なシリーズの続きが読めないことでしょうか。

 紹介した中で私のおすすめは、メインディッシュです。ミステリーとコメディと料理のバランスが絶妙で、内容も相まってなんとなく出張での移動中に良く読んでしまいます。

 今回の紹介はこのあたりで失礼します。