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青春とは個人差?〜堀田きいちさんの「君と僕。」完結に寄せて

 夏、長いですね。結構前に夏といえばロケットと死体探し、なんて言ってた時にはまぁすぐに秋になるだろうとたかをくくっていたんですが、まだまだ夏の六合目みたいな雰囲気です。

 夏というと思い出されるのが、夕方に涼しい部屋から3駅離れた高校に行き、日が暮れた頃にラグビーの練習が始まり、20時頃にグランドを撤収し22時頃にようやく家に帰り着くという懐かしの部活生活です。


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ジョジョの奇妙な冒険第一部1巻より。この辺の立ち位置でした。

 私の通っていた高校は複数のコースがあり、他のクラスと交流ができるのが唯一部活だったのですが、そうなると練習の後にスーパーで買った1.5リットルのサイダーをラッパ飲みしながら互いの将来について漠然と話したりしたものです。今考えるとほとんど蛮族ですね。当時の悩みの大部分は目の前の部活のプレイスキルのことでしたが、部活以外にもそれなりに将来に関する漠然とした不安を感じてはいました。そんなとき、こういう風に生活したいと思わせてくれたのが堀田きいちさんの「君と僕。」でした。

2003年にスクウェア・エニックスのガンガンで連載を開始し、2015年に休載し、2019年に連載再開、つい先日最終巻が出て大団円となりました。

最終巻。

 物語はというと

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容姿の良い双子の祐希と裕太


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成績が良く、真面目な要(かなめ)

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ドイツ人と日本人のハーフでお調子者の千鶴。

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ほわほわとした女の子みたいな男の子、春
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気難しい後輩の女の子メリー(あだ名)

 

彼らの高校生活を巡る群像劇です。基本的にはコミカルな掛け合いを楽しむお話と思って頂いてまったく問題無いです。
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教師も積極的に弄り倒す。

 

 本作の魅力は、仲がよく、常に一緒に居るメンバー同士のかけあいと関係。そして、常に一緒にいるとはいえそれぞれがどのような考え方をしているのか、個人としてどんな体験をしているのかは別々であり、それを俯瞰して見られる点です。先程、妻に「高校時代にろくに恋愛してないやつが高校の恋愛を語るな気持ち悪い。」と言われ、非常に悲しい気持ちになりましたが、高校時代の恋愛エアプ勢の私が特に好きでおすすめしたいのは、君と僕。の4巻に収録されている話で、アニメが好きで基本的にやる気のない双子の弟、祐希と食堂のお姉さんを巡るエピソードです。f:id:sannzannsannzann:20220820192234j:image

食堂のお姉さん。

 

 祐希はお姉さんの持つパン(のシール)を目当てでにお姉さんに声をかけ、

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交渉までやる気がない。

 

祐希もお姉さんも共通して同じシールを集めていたことから、ちょっとした顔見知りになります。f:id:sannzannsannzann:20220820192521j:image

大人の余裕。今だと金額はともかくこんなに食えないのではと思わなくもない。

 

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シールを譲ってはもらえないものの、祐希は食堂の掃除をすることでシールを貰う契約をします。掃除を繰り返すうちに、お姉さんが元々美容師であり、復職を考えていることを知ります。f:id:sannzannsannzann:20220820204316j:image

精一杯。

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人にあまり興味を持たなかった祐希が自分なりに想いを伝え、恋愛に至ってはいなくとも互いに意識する姿が見ていてやきもきします。仲良しグループは「シールを集めたい、でも毎日パンを食べるのは辛い」という祐希のわがままに付き合って、毎日誰か一人がパンを食べ、残りは学食を食べるというわちゃわちゃとした仲の良さも微笑ましいですし、そんな中周りには知られず一人でお姉さんと恋愛未満のやり取りをする祐希が見ていてぐっときます。


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人から見ると単なる剥がれかけでも個人としては思い入れのあるシール。

 結局どんなに仲が良くても24時間一緒にいるわけではないので、共通の思い出とは別に様々な個人的な体験が有るわけです。グループとしての青春と個人としての青春、どちらもバランスよく描いている素敵な作品です。ちなみに私は高校時代、このエピソードに憧れてシール集めてみました。しかし、ラグビー部で遠征に行った際に立ち寄ったコンビニで、先輩や後輩がゴツメめのミックスグリル弁当とかについてた5点とかのシールをくれ、一瞬で集まりました。憧れていたのとは大分違う感じの青春でした。

 話が逸れましたが、そんな「君と僕。」。完結巻では彼らの卒業まで描かれているのですが、その直前に、あまり内心が描かれて来なかったキャラクターに光が当たります。他のキャラクターから見た姿と個人が内心で思っていることはギャップがあります。その内心に一瞬光を当てたことで物語として、個人を描いた作品としての完成度が増した気がします。

 それにしても、16歳のときに初めてこの本を手にとって以来こちらだけ一方的に歳を取ってしまいました。私はもうすぐ30になりますが、完結に際して全巻読み直し、彼らの青春を通して自分の青く傲慢な時代を思い出しました。良くも悪くも少年時代は記憶に残るものです。彼らの青春を通して自らの高校時代に想いを馳せるのも良いかもしれません。