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ファンタジー小説を読みたい!〜高里椎奈さんのフェンネル大陸シリーズ

 ファイアーエムブレムシリーズやタクティクスオウガシリーズなどのユニットを動かして戦うシミュレーションゲームの面白い所は、育てたユニットで巧く戦闘に勝つ楽しさと、自らの行動が物語世界の歴史に影響を与える点だと思っています。そういう意味では最近どちらかというとキャラクターに焦点を当てている様に感じるファイアーエムブレムシリーズよりも選択肢によって分岐のあるタクティクスオウガシリーズの方がやや好みです。まぁどちらも毎回のように買っているんですが。タクティクスオウガリボーンが2022年11月に発売されるそうで今から楽しみです。f:id:sannzannsannzann:20220821163830j:image

Wii Uタクティクスオウガ、公式サイトより。


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ファイアーエムブレム風花雪月より、最近のファイアーエムブレムはあざとい。

 さて、そんな私が好きなジャンルはタクティクスオウガの様にファンタジー系の戦記物になります。具体例としては田中芳樹さんのアルスラーン戦記や、はたまたマヴァール年代記あたりになります。しかし銀英伝をはじめとした田中芳樹作品を読んだことのある方は『皆殺しの田中』によって推していたキャラクターが無惨に散っていく様になんとも言えない寂寥感を覚えたことがあるのではないでしょうか?

「皆殺しの田中」代表作銀河英雄伝説、あなたの推しは死にましたか?私の推しは見事に散りました。

 田中御大は近頃長編のファンタジー戦記物を書かれてませんし、推しが死ぬ辛さは味わいたくない。そしてそろそろ、「ギルド、スキル、チート、レベル」あたりの言葉が苦痛になり、古きよきファンタジー戦記物を読みたい、という私をはじめとした感性がおじさん寄りまたは、主人公が大冒険する話を読みたいという小学校高学年くらいの方に向けて今回は、高里椎奈さんのフェンネル大陸シリーズをおすすめしたいと思います。

フェンネル大陸偽王伝と真勇伝。講談社ノベルス版はミギーさんの挿絵が入っています。

 フェンネル大陸シリーズはフェンネル大陸偽王伝とフェンネル大陸真勇伝からなる全18冊+短編集1冊のファンタジー戦記物です。ファンタジーとしていますが、ファンタジー要素は控えめで基本的には騎士の時代といった雰囲気です。

 大まかなあらすじとしてはストライフ王国の王女であり、13歳のフェンベルク・ストライフ(フェン)が国を追われ、新たな大陸で自分の生き方を模索する話です。王女というとお姫様の様な印象を受けますが、実際は母国の一個方面軍を任された気の強い軍人です。王女から一転、奴隷として売られたフェンは絶望しつつも、自らの母国ストライフと異なる様々な統治制度、軍政を持つ国を巡り見識を広めていきます。折しも安定していた国々はフェンが追放されてきたタイミングできな臭くなっていき徐々に国同士の動乱に巻き込まれていく、といったところです。

 ジュブナイルとして見るならば、単純に様々な動乱に巻き込まれるフェンの冒険活劇を楽しむとともに、フェンが知り合った騎士の見習いロカ、森に住まう戦闘民族イリスの優秀な若者アシュレイの3人が動乱に巻き込まれて迷い、成長する話として楽しむのが第一ですね。この3人は三者三様に悩みを抱えており、フェンは生きる意味見失った自らの先行き、ロカは優秀な身内への憧れとコンプレックス、アシュレイは先の見えない民族の中で自らが天才として生まれた意味に悩んでいます。そして各々が動乱のさなかに自らと向き合い、自分の感情に折り合いをつけていくのです。読者によってこの3名の誰に感情移入するか異なるのではないかと思います。

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講談社ノベルス版「騎士の系譜」よりロカとフェン。

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講談社ノベルス版「虚空の王者」よりアシュレイ。

 そしてジュブナイルではなく、戦記物としての魅力はシミュレーションゲームらしさです。この小説はジュブナイル小説であると同時に、シミュレーションゲームの様な雰囲気がただよっています。それには2つ理由があります。1つはシミュレーションゲームをプレイされた方ならなんとなく同意されると思うのですが、味方が進軍していく際に敵国の事情も会話劇として挿入されているかと思います。

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バハムートラグーンより敵勢力グランベロス帝国のワンシーン。ちょっと例として適切ではない気もする。

本作でも主人公フェンの周囲の人間を描くとともに、戦乱に巻き込まれる複数の国々の内部事情、人物が丁寧に描写され、各国の思惑、キャラクターにも十分スポットライトが当てられています。評議会を持つ商業国、騎士の国、鎖国している閉鎖的な雪国、傭兵の国、大規模な宗教国など様々な国と制度、その内部のキャラクターを知るに連れて、思わず応援してしまう「推し勢力」を見つけることができると思います。

 もう1つはその戦闘シーンの描き方です。軍記物として国同士の争いが生起するのですが、ある程度主人公に焦点が当てられている性質上、大軍勢同士の衝突ではなく主人公が参加している局所的な戦闘にフォーカスされています。つまりは、シミュレーションゲームにおける主人公陣営の戦闘っぽさが凄いんです。戦乱が始まる前は違法な商船の摘発や街角での数人がかりの戦闘、戦乱が始まってからは局所戦のさらに主人公が参加している範囲の戦闘と、ユニットを動かすシミュレーションゲームならばおそらくこんなステージで、敵将の名乗り口上と能力はこんな感じでと思わず想像してしまう戦闘描写が魅力的です。


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ゲームボーイアドバンスタクティクスオウガ外伝より。こういう戦闘前の言い合いみたいなやつかなり好きです。

 そして各国、各人の思惑から裏切りや協力が生起する度に、「あーこういう能力のユニットが加わるやつね」と思わずにはいられません。これは私が単なるゲーム脳であるためかもしれませんが。私が特に好きなキャラクターは主人公から見て敵勢力?の武将ゴードンです。

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講談社ノベルス版「光と闇の双翼」よりゴードン(左)

棍棒を振り回す巨漢でカコア(恐らくココア)が好きな男です。作中では敵として登場しますが、成り行きと恩義で一時はフェンに味方します。彼の魅力は粗野な態度にも関わらず情に篤く自らの思う通りシンプルに生きようとしている点です。こういった魅力的なキャラクターが織りなす戦闘がシミュレーションゲームにのめり込んだ方を始めとして戦記物が好きな方におすすめです。

 最近ファンタジー小説を読んでいないという方、国の動乱を描いた戦記物が読みたい方、是非フェンネル大陸シリーズを手にとって見てはいかがでしょうか?広い大陸の多くの国々の中からあなたの推しキャラと推し勢力が見つかるはずです。