読んだら寝る

好きな作家、本、マンガについて紹介

竹田人造さんの「AI法廷のハッカー弁護士」〜5年ぶりに逆転裁判の新作が出てた。

 人がやってるのを見るのは良いが、自分がやるのは御免だというものが世の中には多々ありますが、私の場合は裁判です。何故なら恐らく訴えられる側しか想像できないからです。訴えられるというのは恐らく親権が取られることを意味している気がします。それは嫌だ。

 さて、裁判を見るのは楽しいなんて様々な書籍やブログ、はたまた漫画で紹介されていますが平日に裁判所に行くこと自体が社会人にはハードルが高いです。そんな私が裁判を感じる瞬間といえば唯一、逆転裁判シリーズです。

小学生時代にゲームボーイアドバンスでアホほどループした思い出の裁判。

 

 個性的な弁護士、検事、サイバンチョをはじめ証人にインコやロボットやはたまた霊に至るまでが登場するCAPCOMの誇る法廷アドベンチャーゲームですね。法廷を題材にしたゲームの唯一にして頂点といった趣きです。しかしそんな名シリーズも2017年に出た大逆転裁判2を最後に新作が出ません。と思っていたら出ていました。ハヤカワから。

 それがこちら、竹田人造さんの「AI法廷のハッカー弁護士」です。

全1冊。

 本の内容の紹介の前に少し言いたいことがあります。この本、文庫書き下ろしとかではなくソフトカバーらしく2310円(Kindleだと2079円)もします。長らく評判が良かったのに手に取らなかったのもこのあたりの理由です。ちなみに本作をアマゾンのほしいものリストに入れて購入するか(値引きしないかなと)悩んでいた私は、今度講談社から「ゴリラ裁判の日」という小説が出るということを知り、「ウホウホ言う裁判の前に普通?の裁判の本が読みたい。」と本作を手に取りました。そんなよくわからない動機で購入を決めた私ですが、読み終わった今、この価値はあると断言できます。もちろんそこそこ金額はでかいです。割と単価の高いハヤカワ文庫でも3冊くらい買えるお値段です。えっ!ソフトカバー1冊で文庫3冊分の満足感を?


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漫画スーパーくいしん坊より。

 表題にある通り、この本はSF法廷エンタメ小説にして実質逆転裁判の新作です。コンシューマゲームが5000円として既に本の価格を超えてますね?そういうことです。だから大丈夫です。逆転裁判の新作欲しさにCAPCOM大名行列に向かってそろそろ直訴しようかなと考えている無礼討ち覚悟の方にこそ手に取っていただきたい作品でした。

 さて割と不要な感じのする前置きをさておいて、内容を紹介していきます。

 この本は4篇の中篇からなる小説です。審理の迅速かつ公平、そして種々の利権が絡み合いAI裁判(官)が導入された日本。主人公の機島雄弁(きしまゆうべん)は魔法使いを自称する不敗と言われる弁護士であり、いつものように金と名声が手に入れられそうな世間の注目度の高い裁判の弁護人となっていた。その事件とは密室殺人。ふたりで酒を飲んで眠り、起きたら一人にナイフが刺さっていたというシンプルな事件。その場から逃走し、誰がどう考えても犯人としか思えない被告人、軒下智紀(のきしたともき)の弁護を引き受けた機島はあっさりと軒下の無罪を勝ち取ってしまう。事件は一件落着かと思いきや、ひょんなことから軒下は機島が実はAI裁判官をハッキングして無罪を勝ち取ったことを知ってしまう。軒下は知った事実と引き換えに機島に友人が亡くなった真実(真犯人)を明らかにしてほしいと交渉を持ちかける。

 ざっと1話の内容がこんな感じです。近未来のSF+ミステリー+法廷物というのがいい塩梅で混ざり合っていて色々乗った海鮮丼みたいです。そして事件を取り巻く謎を彩るのが小粋な会話劇です。独自に捜査をする軒下くんと機島のやり取りはさることながら、怪しいオンラインサロンにハマりがちな検事田淵、機島にAI裁判官の情報を提供するクラッカーよりのハッカー錦野(にしきの)そして個性的な犯人。カオスな審理。異議あり!って叫ぶ弁護士&検事、全部逆転裁判で見た(今後更に見る予定の)やつです。
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Switchに移植されたのに思ったより公式サイトが時代がかってる気がする。

 逆転裁判あるあるとして、犯人がわざわざ証人として裁判にやってきたり、冒頭で犯人が殺人を犯すシーンから始まったりと序盤は割と誰を追い詰めて行くのか明らかな場合が多いんですが、本作でも2話まではその流れを組んでいます。そんな中でも、どう犯人を追い詰めるのか?とは別にどう裁判官をハッキングする(した)のか?と考えながら読むのが本家とは一味違っていて非常に楽しいです。


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2話冒頭で殺人を犯すドクター・オクトパスみたいな犯人。(画像はドクター・オクトパス本人。)犯人の中で一番好き、腕の数でマウントを取ってくる。

 さて、「2話までは」というと以降はどうなんでしょうか?2話のドクター・オクトパスみたいな犯人と丁々発止のやり取りをしたあと、なるほどこういうコメディタッチで行くのね、と思わせておいて急転直下の3・4話。ネタバレを避けて説明するとコメディ裁判ミステリーかと思いきやあるシーンで急にシリアス度が増し、なんならややホラーの沼に両足を突っ込みます。気圧差のせいで読んでて普通に鳥肌が立ちました。ネタバレに配慮して言える範囲で言うと、狂ったAI裁判官が有罪判決を垂れ流すとめちゃくちゃ怖い。そしてこういう段々とアクセルがかかっていく展開、やっぱり逆転裁判じゃないか!

 AIならではの問題点、そして闇、最後のハッキング、ぜひその目で確かめてください。特に最後のハッキングシーンは他人が書いた小説なのに何故か自分の手柄の様にドヤ顔できること請負です。
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ややドヤる主人公(画像は逆転裁判3より)

 そして「逆転裁判が面白かったから…」という理由でこんな名作を上梓された竹田先生に感謝を!

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