社内試験的な行事が刻一刻と迫っています。暗記しないといけない資料が多数あり、正直かなり面倒なのですが、いい歳して久々にテストされるというレアな経験に学生時代が思い出させれます。学生時代は勉強はやや頑張っていたのでテスト自体は嫌いじゃなかったんですが、それも段々と「まぁ合格点取れればいいや。」に変わっていきました。一回そう思って合格点になるとそれからあんまり満点を目指して!みたいに頑張れなくなってきました。若い頃のようにガツガツと行く気性でも無くなって、元々平凡だったのに更に小市民の極みになっています。
さて、小市民といえば最近アニメ化も決定した米澤穂信さんの「小市民シリーズ」ですね。というか逆に小市民シリーズくらいでしか日常で小市民という単語を使わない勢いです。アニメ化かーちょっと観たいなーと思いつつ年明けで比較的元気だったので小市民シリーズを再読したのでご紹介します。
小市民シリーズ(既巻4作品5冊)
私が年明けで元気だからこそ小市民シリーズを読んだのには理由があります。米澤穂信さんの作品といえばそれこそアニメ化した「氷菓」を始めとした「古典部シリーズ」、信長に反旗を翻した荒木村重と彼に幽閉された黒田官兵衛を描き直木賞を受賞した「黒牢城」など出せばヒット作という勢いの作家ではありますが、その根底に渦巻く無力感や悪意の勢いも物凄い(※個人の感想です。)イメージのある作家さんです。端的に申し上げるとバッドエンド(風味含む)の作品が多いんですよ。全作品読んだ訳ではないんですが、逆にハッピーエンドの長編あるんでしょうか?という勢いでバッドエンド(風味含む)の作品が多いです。
反乱中に様々な謎に翻弄される荒木村重を描いた「黒牢城」
高校生が主人公のミステリーというと、仲間たちと協力して明晰な頭脳で謎を鮮やかに解き明かすといった雰囲気をイメージするかと思います。古典部シリーズではやる気がないながらも明晰な頭脳を持った折木奉太郎君が猪突猛進な可愛らしいお嬢様、千反田えるさんに火を付けられて謎を解き明かしていました。アニメは残念ながら未視聴なんですが、小説の古典部シリーズでは「解き明かしたものの悲しい結末だった」「どうにもならなかった」「頑張らなくても良かった」等明るいな雰囲気の中で迎える結末が、最終的になんとも言えない脱力感、個人ではどうにもならない無力感が見て取れました。というかコミカルな雰囲気で全くその辺り気にして無かったんですが大学時代に読書好きな友人に「米澤穂信さんってバッドエンドばっかりだよなー。」と言われて気づきました。そういやハッピーエンド見かけないぞ、と。
そんなビター専門なパティシエみたいな米澤穂信さんの作品の中でも、今回紹介する小市民シリーズは、高校生活の狭間で楽しく推理をする探偵を描く青春ミステリーではなく、推理や事件とは無縁な小市民たらんとする2人の高校生を描いた作品です。
主人公の小鳩常悟朗と小山内ゆきは互いに協力して(中学時代とは違って)穏やかな小市民的な生活を望んでいます。というのも、小鳩君は幼い頃より「持ち前の推理力を以て、望まれてもいないのに様々な事件に首を突っ込んだ」結果、ガッツリ周囲から疎まれた(と思われる。)経験から高校では大人しくしようと誓っています。要すれば彼の青春ミステリーなファーストシーズンは中学時代で終わりを迎えており、主人公が変わり果てた状態であるセカンドシーズンから高校生活は始まっています。ミステリー小説であまり取り上げられない「推理を披露する人間が周囲からどう扱われるか」の結果がリアルに表現されています。榎木津礼二郎位身勝手な人間にしか探偵仕草は無理だよ。でも経験値があり元々能力は高いので、何だかあんまりいいエンディングを迎えられなかったゲームの2周目が始まったみたいな状況です。
一方で小山内ゆきさんは、小柄なせいで周囲からは中学生にも見間違えられるスイーツが大好きな高校生の女の子。彼女は彼女で中学時代の自分と決別して小市民を目指します。
ハチミツとクローバーよりはぐ。読書前のイメージ。
彼女は、その大人しそうな容姿からは想像もつかないアグレッシブな性質を持っており、少なくとも「気弱だった中学時代とはもう決別!高校デビューして楽しく過ごすのよ!」とかではないことは間違いないです。どちらかというと「中学時代調子乗ってたら少年院入りかけたから高校では大人しく学校通おうかなー。親も心配してるし。」っていう不良漫画の主人公の方が近いです。
そんな彼女ですので、小鳩君のことはその頭脳を認めつつ、「小賢しく知恵が回る」くらいのノリで陰で「狐」呼ばわりしてます。
ジャンケットバンクより可愛い狐さん。
ネタバレ防止で伏せますが、小鳩君の「狐」に対応した彼女の動物占いは「〇〇〇〇」なあたり、危なさは折り紙付きです。少なくともモモンガとかエゾリスとかお付き合いしたくなる可愛らしい性格の動物ではないです。
さて、そんな小鳩君と小山内さんですがその高校生活には様々なトラブルが降り注いできます。日常の謎が降ってくる度に思わず謎を解き明かしてしまう小鳩君に、不幸な事件に見舞われる度に「〇〇〇〇」の本性が垣間見える小山内さん。
そして、小鳩君が主として絡む謎は「ポーチが無くなった」「限られた器でココアを作るには?」等と比較的平和な案件な一方で、小山内さんは「変な事件に関わってそうな人に自転車を盗まれた。」「脱法ドラッグを楽しむ集団に目をつけられた。」「先輩たちに暴行されている中学生から謎のCDを受け取る。」等と引き寄せる事件がかなり危なげです。
個人的に好きなのは、小市民を目指しているのに、結局謎があると口角を上げつつ楽しげに推理してしまう小鳩君と「〇〇〇〇」らしく機会があれば全然自重しない小山内さんの食い合わせの良さですね。小山内さんは小鳩君の頭が回るところが結構好きなようでブレーキをかけないばかりか、ちょっとした謎解きを日常にガンガン挟んできます。小鳩君は小山内さんに付き合いつつも「大丈夫?暴れない?」「小山内さんじゃなくて相手が心配」みたいなスタンスで、もう凍りついた路面でブレーキを掛けることを諦めた運転手みたいになっているのが見どころです。
すごいよマサルさんより。ライト点灯とブレーキしてなかった結果。
あと「バレないように上手くやるし、これくらいならバレてもセーフだろう。」のノリで小山内さんに挑戦するあたりが最高に「童話の中で悪知恵を働かせる狐」ムーブをしています。小市民は知恵を働かせて仲間を騙そうとしない。そんな感じで2人で監視・制限し合ってないので全然この小市民同盟機能してないです。
あとは、シリーズ名に入っている様々なスイーツに加え多くのスイーツが作中に登場し割と物騒な青春に華を添えています。甘いものを食べた後にしょっぱさが際立つように、可愛らしいスイーツ描写の後には、ビターの匠、米澤穂信さんが苦い苦いをラストを用意してくれています。と思っていたんですが、少なくとも最新刊は(比較的)ハッピーエンド(っぽい)又はビターというほどでもないエンディングの短編がいくらか有りました。
最新作。
私は大概性格が悪いので、「数年前からアニメ化の話があり、比較的可愛らしい話を用意したのでは?」「春夏秋と来て巴里マカロンなのは番外編だからビターエンディングが少ないのでは?」「冬季限定〜はとんでもないバッドエンドでそのための屈伸では?」等と思っていますがどうなんでしょうか?今からアニメも楽しみです。
2人は協力して平々凡々な小市民になれるのか?そして、今後ハッピーなエンディングは2人に訪れるのか?平々凡々な自分が嫌になった方におすすめのシリーズです。非凡なんて全く良いものではないのです。きっと平凡な自分を肯定できるはずです。目指せ凡夫。
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