読んだら寝る

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たまに思い出す山田のこと。〜金子玲介さんの「死んだ山田と教室」

 この度、第65回メフィスト賞を受賞した「死んだ山田と教室」を読みました。

第65回メフィスト賞受賞作品

 さて、「死んだ山田と教室」発売日に買っておきながら多忙のためつい先日ようやく全て読めたのですがめっちゃ良かったです。何故か発売前から映画化が決まってて、そんなことあるのか?そんな凄いのか?って思ってました。実際斬新な読書体験でしたし、是非映画も見たいと思いました。

 この「死んだ山田と教室」の舞台は割と進学校な啓栄大学付属穂木高等学校(通称、穂木高)。穂木高の2-Eは、クラス1の人気者山田を中心に雰囲気の良い最高のクラスでした。

 本筋と全然関係ないですが私は、ラグビー部だった山田が骨折して部活辞めたという情報からずっと隣のクラスのラグビー部の同級生という気持ちで読み進めてました。あいつが怪我しなきゃ県大会いいところまで行けたのに、同じフォワードとしてずっとやってきたのに辛いわ。こんな感じで隣のクラスの山田の知り合い目線で読むとやけに山田と山田のクラスに感情移入できるのでオススメです。

 しかし、8/29に山田が飲酒運転の自動車に撥ねられて亡くなり、クラスは夏休みが終わった9月に入ってもお通夜ムードに。「要は」が口癖の空気の読めない花浦先生が「死んだという噂を聞いた元カノ」を例に挙げてどんなに言葉を尽くして励ましても、「そもそも生死が曖昧な元カノと俺達の山田を一緒にすんなよ。」と上の空だったクラスに、何故かスピーカーに乗り移った山田の霊が降臨し、「俺の考える最強の2-Eの布陣」を発表し、クラスは急遽席替えをすることに!

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メフィスト賞史上一番平和な見取り図。

 冒頭はそんなちょっとシュールすぎる話です。勿論、声だけの存在になったとは言えクラスの人気者であった山田と話せるのは皆嬉しく、話し合いの結果「クラスの外にバレたらマスコミやらなんやら大変なことになる。」と考えた2-Eの面々はクラスに部外者がいないタイミングで山田と話したいときには絶対に他人が言葉に出さないような合言葉を山田への合図として呟きます。「おちんちん体操第2」と。ちなみに第2なのは「男子校なんだからおちんちん体操くらいは誰かがふざけて言う可能性はある。」とクラス1の秀才高見沢が提案したからです。流石高見沢!

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クラス1の秀才(イメージ図)

 さて、この物語の魅力は何でしょうか?和気あいあいと過ごす高校生の交流でしょうか?または死を通しても失われない友情でしょうか?はたまたバカばかりやってる男子校のノリでしょうか?いずれも魅力の一部ではありますが、本作の一番の魅力は圧倒的なリアリティです。


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男子校のノリ(イメージ図)

 生きていた山田に対するスタンスが全員違っているのは当たり前ですが、死んだ山田に対するスタンスも十人十色です。死んだのだから話すべきではないと考える者もいれば、いつまでも山田と話していられて嬉しいという者もいます。そしてその考えも高校生活の残り半分、1.5年間を通して移ろいゆく様が描かれています。ある意味やってることは豚を食うか生かすか決めるクラスに似ています。

カリキュラムに無さそうな力強い情操教育。

 ただブタがいた教室と違って山田が死んだ教室では、山田の今後について全員で多数決を取るわけではないので、明示的なものはなくあくまで一人一人が山田と関わり、その関係性を変えていくことになります。その模様が少年期の人間関係の多様性を描いていてリアリティが半端ないです。  

 さて高校生活のことを思い出してみてほしいのですが、2年生の頃に仲の良かった同級生とどれほど今でも関わりがありますか?そもそも成人しており、 社会人と比較的地続きな大学生活あたりと比較すると高校生活に思いを馳せる機会なんてほぼ無いのではないでしょうか?私は正直、1〜2番に仲の良かった友人とたまに話をするくらいです。何が言いたいかと言いますと、あなたは高校の同級生の名前を何人覚えてますか?今急に同級生に会いに行こうと思いますか?私は正直あまり思い出せませんし、今でもやり取りしている相手以外は会おうとも思いません。

 細部はネタバレになりますが、そういう意味ではスピーカーになって復活したという特殊な境遇にある山田もあくまで同じように一人の高校生なのだと思い至りました。スピーカーとなった「クラス1の人気者山田」が「一人の高校生山田」となり、クラスメートの関係がどうなっていくのか興味がある方は是非最後まで見届けてほしいです。読み終えたあと、何となく疎遠になったけれども仲の良かった同級生のことを思い出してしまう、そんな素敵な1冊でした。

 

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自己肯定感が上がります。