読んだら寝る

好きな作家、本、マンガについて紹介

頑張ろうと思わせてくれる作品〜木尾士目さんの「はしっこアンサンブル」

 激務の中ようやく休みに入りました。久々にゆっくり過ごす時間ができ、たまにはダラダラするかとぐうたらな日々を送っています。ただ、最近あんまり心に刺さる小説と出会えていないと言いますか、久々の余暇にまだ心がついて行っていないと言いますか、とにかく活字に集中できていません。あんなに読書三昧の日々に憧れていたにも関わらずです。これは休みなのにめっちゃ取引先から連絡きたりしてるからでしょうか?ちょっと今読みたい本とか整理したいと思います。

 なんか気持ちが落ち着かないのは昇進するための社内試験に落ちたことも原因にある気がします。正味激務で勉強する暇が無い、と言っても朝早くから起きて勉強したり、残業の後に勉強したりしてない以上何を言っても言い訳にしかなりません。「まだ全力を出してない。」みたいな痛いムーブは今まで取ってきてはいないつもりですが、少々情けなく感じてます。そういう時に思い出すのは過去自分が頑張ってきた記憶です。受験勉強や部活、果ては研究において後悔ばかりですが、それでも「俺は全力で頑張ったことがある。」という記憶は、もう一度何かに打ち込もうとするきっかけにはなると思います。

 さて、クソ自分語りが終わったところで、今回紹介するのは必死で変わろうとする高校生達を描いた作品、木尾士目さんの「はしっこアンサンブル」です。

 

全8巻(完結済み)

 木尾士目さんといえば大学のオタクサークルを描いた作品「げんしけん」が有名ですね。

全21巻(完結済み)

 今作は受験勉強が終わり趣味に遊びに振り切っている大学生達ではなく、自分の進路に不安を抱いている悩める工業高校の学生たちを描いた作品てす。

 工業高校といえばやはり資格取得や早く就職して独り立ちしたいという学生に昔から人気のある学校です。主人公、藤吉晃(ふじよしあきら)はシングルマザーの母親を助けたいという思いと、自分の低い声へのコンプレックスから「あまり人と話さなくても済む仕事に就ける」のではないかと考え端本工業高校(通称はし高)に進学を決めます。
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かなり後ろ向きな主人公。

 彼が自分の声にコンプレックスを持つ理由となったのは、中学時代の合唱コンクールでした。あまりにも低くなりすぎた声とうまく付き合えず、口パクで乗り越えた合唱コンクールはなんと金賞を受賞しました。それがきっかけで彼は異分子の自分が不在のほうがクラスがまとまったと声を出すことが苦手となってしまいました。
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多感な時期にこれはキツい。

 そんな藤吉がはし高で出会ったのは合唱部を作ろうと毎日校内で歌い続ける新入生、木村仁でした。

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歌う木村、中々できることではない。

 派手なパフォーマンスは良くも悪くも他人の目に留まり、上級生にいちゃもんをつけられたりしますが、彼は校内のあらゆるところで独唱を続けます。そして、ある日、藤吉は教室でスキマスイッチの「奏(かなで)」を歌う木村に出会います。奇しくもその曲はかつて藤吉が合唱コンクールで歌えなかった曲でした。

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トラウマ。

 「奏」を筆頭に男声、女声と様々に変わる曲に耳を奪われた藤吉は木村の目に留まり、その低音の低さは合唱において武器になると告げます。そして藤吉は「声を出せるようになれたら合唱部に入部する。」という条件で声を出すトレーニングをすることになります。

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 出会い。

 

 さて、合唱は一人でやるものではないです。もちろん2人でできないことはないんでしょうが、やはり人はいるにこしたことはありません。本作には藤吉、木村以外にも様々な登場人物が自分の悩みと向き合いながらも成長していきます。
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新入生で唯一の金髪、どこからどう見ても不良の折原

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ピアノを諦めた不器用少女、倉田

 本作の魅力は、木村によって変わっていった藤吉とその藤吉に救われた周囲の同級生達、そして巡り巡って木村を変えていくという化学反応のような成長譚です。木村と藤吉が二人きりで始めた合唱同好会に徐々に仲間が増えていき、悩み、衝突を繰り返しつつも合唱になっていく様は読んでいて胸を打ちます。是非全巻通しで読んで彼らの成長を見届けていただきたいです。


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自分の過去に向き合うために合唱を始めた折原


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過去の経験から、自分の才能の無さと感情表現への理解を諦めている木村


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過去の合唱コンクールの経験を引きずる藤吉


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ぶつかり合って、互いの想いをぶつけ合い変化、成長していく様がぶっ刺さります。

 そしてなんといっても合唱シーン。登場人物たちの感情の昂ぶりが伝わるとともに、自分がまるで観客になったように感じる表現は素晴らしいの一言です。是非、1回目は普通に読み、2回目では各合唱シーンにyoutube等で実際の合唱を流しながら読むのはいかがでしょうか?没入感が味わえて非常に素敵です。
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魅力的に描かれる合唱シーン、是非耳と目で楽しんで欲しいです。

 木村と藤吉によるハーモニーで始まった合唱部。その2人が最後に一体何の曲を歌うのか?それを是非その目で、耳で確かめてみてはいかがでしょうか?何かに打ち込んできた方には「もう一度頑張ろう。」と思わせてくれる素敵な作品だと思います。

 

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