頼みの綱の三連休も終わり、本格的に仕事初め感が漂っていますね。弊社の私がいる部署では既に年度の終わりを見据えて次年度の新体制の準備が始まりつつあります。私はと言いますと出世することは無いですが、優秀な方々が出ていって玉突き式に責任が重くなる予定です。ここは褌の緒を締め直して業務に掛からなければなりません。めっちゃ嫌ですが。太っている私が褌を締めると相撲部屋の新弟子検査を冷やかしに来た男みたいになりますし。
さて、そんな私のような悩める社会人に今こそオススメしたい小説があります。早瀬耕さんの「未必のマクベス」です。
早瀬耕さんと言えば、寡作なSF小説家です。デビュー自体は1992年ですが2作目である「未必のマクベス」は2014年に書かれた作品で、現在まで6冊の小説を執筆されています。代表作は今回紹介する「未必のマクベス」ですが、計算結果が状況により異なるという不思議な有機素子を用いたコンピューターを題材にした「グリフォンズ・ガーデン」「プラネタリウムの外側」なども有名ですのでこちらも機会があれば是非。
プラネタリウムの外側はタイトルも美しい。
さて、今回紹介する「未必のマクベス」ですが、まず未必というと人によっては法律用語でもある「未必の故意」が浮かんで来ると思います。私はこの「未必」という言葉、寡聞にして知らなかったんですが、恋愛漫画で知りました。
(シギサワカヤさんの未必の恋)
未必とは、検索してみますと次のような意味らしいです。

未必の恋だと、「恋に落ちるかもしれないけど、まぁ恋しちゃってもいいや。」みたいな感じで、未必のマクベスだと「マクベスになるかもしれないけどなったならなったでいいや。」みたいな感じでしょうか?
マクベスはシェイクスピアの四大悲劇の一つで、スコットランドの将軍マクベスが荒野で魔女の予言を聞き、妻と謀って国王を暗殺し自らが国王となるが、次第に心を病み、最終的にイングランド軍によって攻め込まれ殺されると言うあらすじです。読んだことあるはずなんですが何故かマクベス夫人が罪悪感に駆られてずっと手を洗ったり夢遊病になるシーンしか覚えてませんでした。
言わずとしれた戯曲、マクベス
「未必のマクベス」の主人公、中井優一はIT企業勤務でSuicaみたいなICカードの暗号化方式についてアジア地域でセールスする営業マンです。中井は、営業のパートナーとして高校の同級生であり、名前から英語教師に、マクベスの腹心の部下であるバンクォーと呼ばれたりしていた伴浩輔(ばんこうすけ)を従えて、タイやベトナムで中々の契約を締結し、しれっと出世競争でも2位くらいにつけている所謂できるサラリーマンです。現地のブローカーを使いこなし、アジアの裏も表も知り尽くした事情通と言ったところです。
取締役島耕作より、アジアを知り尽くした事情通(イメージ)
さて、そんな中井は優秀な部下、年上の素敵な彼女に囲まれて順風満帆な生活を送っていました。あと何故かそんなに幸せなのに、高校時代に後ろの席に座っていた女の子のことを日々思い出したり、全てのパスワードをその女の子の名前にしたりと30代半ばにしてはやけにじっとりと青春時代の思い出に浸って生活してます。当時も他の彼女居たのになんで後ろの席の女の子にそんなに執着するんだよ。とにもかくにも、物語の序盤はほぼ島耕作です。

課長島耕作より。
そんな彼に転機が訪れたのは、帰国のための経由地として香港に寄る筈だった飛行機がマカオに到着したことでした。中井は伴と一緒にカジノに繰り出し、ここぞという場面で必ず賭けに勝利している老婆を見つけます。賭けで勝った泡銭を老婆にフルベットした中井は一晩400万円程稼ぎます。そしてホテルの前にたむろしていた娼婦たちに絡まれ、「貴方は王になる。王になって否応なく旅を続けなければならない。」と告げられます。
その後中井はとある出会いによりカジノで儲けた額ピッタリのペーパーカンパニーを買い取り、奇しくもそのタイミングで買い取った会社がある香港に、関連会社の社長として出向を命じられました。
自分以外は魅力的な女性秘書しかいない上に毎日の仕事は飲み歩くだけという天国のような新会社で勤務する中井ですが、過去に買い取ったペーパーカンパニーや関連会社で勤めていた社員の殆どが不自然死していることが分かると予言を思い出し、次第に自らが王になること、マクベスとなる覚悟を決めるのでした。

新会社(イメージ)


秘書2人(イメージ)、実際強い。
さて、どうにも単なる偶然不幸な立場に置かれただけで中井はマクベスとなる運命など無いように思われます。しかし、一度意識付けをされるとどうしても想像してしまう様で、マクベスが戯曲の中で犯した失敗をしないように、または当初のマクベスと同じ様に鮮やかに王になるため行動をなぞる様になります。中井は現実を見据えている筈なのに同時に現実感の無い妄想に振り回されていく様子、その落差が凄まじく「あれ?さっきまで島耕作だったのに2ページめくったらマクベスになってる。あれ、どんどん話もマクベスになっていく…。」という急転直下ぶりが本作の魅力です。
また、本作のもう一つの魅力は同僚、同級生であり部下でもあるバンクォーこと伴です。伴は高校時代は爽やかなスポーツマン、しかし勉強もでき、優秀な大学及び大学院を経て現在に至るスーパーサラリーマンなんですが何故か常にワンタン麺を食っています。
4食連続ワンタン麺を食べたりランチ以外はワンタン麺を食べたり、高級レストランと町中華で味を比べたり、各国のワンタン麺を食べ比べたりやりたい放題です。
物語の中盤、中井がオフィスにあるスタンドアロンのコンピューターをハッキングできるか?とえらく無茶なことを尋ねるシーンが有りました。彼は(ワンタン麺を頬張りながら)「出来なくも無い。」と実際にやり方を教授する等、滅茶苦茶仕事ができるし頼れる相棒です。しかしどうしてもワンタン麺がノイズになってしまうという不思議なキャラです。そんな伴ですが中井と過ごした高校時代から非常に複雑な想いに囚われ続けており、実は常にシリアスな雰囲気を纏っています。

取締役島耕作より、頼れる相棒(イメージ)
そんな伴が終盤かもし出す、「ワンタン麺しか食べてない男が出してはいけない色気」「ワンタン麺しか食べてない男がこんなに優秀なはずが無い。」「ワンタン麺しか食べないのに立派にマクベスのキャラクターみたいなムーブしてる。」等あり得ない程キャラクターに味変があるので物語の急転直下と同時に味わっていただきたいです。
仕事が忙しく王になったほうが早いという方、年始に占い師に乱世の奸雄と呼ばれた方、王に成ることが決まっている方にオススメの一冊です。
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