なんか世間はswitch2と関税と自称な方々の話題で盛り上がってます。我が家でもあとちょいで5歳の可愛い息子を筆頭に全員がswitchをやっているので妻と息子からのswitch2の抽選当てろという圧力が強いです。
さて、政治の話とか職場でも飲み屋でも敬遠されるつまらない話ですし、できれば「ストロング・ザ・メリーさん」の話とかステイサムが蜂蜜作る話ばかりしてたいんですが、ニュースに飛び交う報復関税84%とか見てると今って歴史の転換点なのかもしれないとかガラにもなく思ってしまいます。
「ストロング・ザ・メリーさん」が出てくる話
ステイサムが蜂蜜作る話。
そんなニュースを見ながら私が読んでいた短編は丁度「森ガールが警棒で殴られる」シーンで、ある意味、その時歴史が動いたら忘れられない思い出になりそうです。折角ですのでそんな作品、小川哲さんの「嘘と正典」を紹介したいと思います。
(全1冊の短編集)
本作は過去と現在、とりわけ過去が現在に与える影響を主題とした短編集です。表題作「嘘と正典」については掲載順同様最後に語るとして、まず巻頭の短編「魔術師」について話したいと思います。
「魔術師」は最後のマジックショーで消えた父親について息子の目線から語られる短編です。かつてマジシャンとして栄華を極めた父親は、自らの魔術団を開きたいと無理な自転車操業を繰り返し没落していきます。その後、復活を遂げたマジックショーで彼は「マジシャンとしてやってはいけない3つのこと」即ち「これから何をするか説明してはいけない、同じネタを繰り返してはいけない、マジックの種を明かしてはいけない」という3つの禁忌について説明します。
加藤元浩さんのQED「マジック&マジック」より。全話無料で読んだとき、たしか種明かしの話あった!
その後、彼はその3つ全てを行ったうえで観客を驚かせてみせると宣言し、過去にタイムスリップします。彼は過去に跳び、過去の彼自身に語りかける映像を観客に見せつけ、そしてそのまま消えてしまいました。
この短編の白眉はマジシャンの父親が述べて、そして消えたマジックの様に、消失したマジックの種が読者に早々に明かされる点です。つまり種を明かした上で観客を驚かせたマジシャンの物語は、その中盤で、内容を明かしても読者を驚かせる話へとシフトします。物語の筋通り内容が明かされるにも関わらず、最後の1行まで読者を驚かせる手法はあまり見たことがありません。
ネタバレした上で面白おかしく語れるほど文章力が無いので、ちょっとよく分からない余談になりますが、出版社のせいでこの短編上重要な2択がどうしても6:4か7:3くらいで偏って見えちゃうのはちょっとシュールだと思いました。多分創元推理文庫で出版されていたら比率が逆になった気がします。
さて、この他にも音楽を資産とみなす住民が暮らす島、亡くなった父が残した競走馬、千夜一夜物語を思わせるある王と従者の会話など魅力的な話が多数あります。それらの共通点は過去が現在に及ぼす影響、ある意味因果応報を描いた作品群であり、ある短編は希望を、ある短編は失意を描き、読後感こそ違えど共通のテーマを感じさせます。
そんな中、テーマこそ共通するものの異色な雰囲気を感じさせる短編「最後の不良」について語る必要があるでしょう。
「MLS(ミニマルライフスタイル)社」のセミナーにより、流行を追うことがダサい、ミニマルな生活こそが最高だという「虚無」が流行した社会。カルチャー誌の編集者をしていた主人公は佐賀で解散した暴走族「覇砂羅(バサラ)団」より特攻服を譲り受け、首都高を「暴走神風(ゴッドスピード)号」で駆け抜けます。目的地はMLS社、そこではボディコン、森ガール、竹の子族、カープ女子、梨や熊の着ぐるみが「流行を取り戻そう」と暴動を起こしていました。トップクを着込んだ主人公はそこで暴動を扇動するかつての同僚がこっそりMLS社に入り込む姿を見て後をつけるのですが…。
終始コメディタッチながら、ネットを開けば自分の好きな本、映画、音楽がリコメンドされSNSでは流行が可視化される現代、一度は自らの好みとは何なんだろうとは、割と誰でも考えると思います。今一度自らの好みを見つめ直す気持ちになる良い短編でした。それはそれとして森ガールは警棒でぶん殴られます。
さっきまで「世界で一番価値のある音楽」「ある競走馬の切ない歴史」の話をしてたかと思えばフ◯ッシーが角材を持って大暴れする作品が流れてきて、高低差で高山病に掛かりそうな短編集です。あとこの表紙でコメディをやるな。

都酒伝説ファイルより。他人の丁寧な生活とか見ると私もなります。
しかし、このままの流れで、冷戦時代ソ連に配属されたCIAの工作員がスパイから重要な情報を得て歴史を変えようとする話、表題作「嘘と正典」に繋がります。
ソ連で活動するスパイ、映画で割と見るやつ。
山は頂上が見えないので下ったかと思えば登りを繰り返すのと同じで、さっきまで箸休めの気楽な話だったのに、いきなり鼻が地面を擦るほど急勾配な登り道の様にシリアスすぎる話です。
種を明かしたあと余韻すら感じない速度で話を終えた巻頭の「魔術師」と比較すると、「嘘と正典」の物語はゆっくりと丁寧に語られていきます。過去に起こったある裁判、ソ連を支える共産主義という思想、過去を変える仕掛け。CIAに協力する男の生活などが描かれる中、この物語は途中まで読者の予想の通りに進みます。ゆっくりと丁寧に2択を突きつけてくる訳です。それでも最後の最後まで2択がどうなるのか分からないという興奮を是非楽しんで頂きたいです。
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