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好きな作家、本、マンガについて紹介

君と「郭汜」と「魏延」の話がしたくて〜久保カズヤさんの「三国志〜継ぐ者たち」

 私が小学生2年生くらいの頃でしょうか。プレステ2が我が家に来ました。当時は何のゲームを買うか思いつかなくて、親の買ったFF8をやったりしてました。当時、近所には3人兄弟の従兄弟が住んでいて、その長男と次男はそこそこ歳上で同じ時期にプレステ2を購入し、「バウンサー」とか「真・三國無双2」をやっていたように思います。たまに邪魔するなよとか言われつつもゲームしてる様子を覗くと、長男が夏侯惇、次男が魏延を使っていました。私と魏延の出会いはその時でした。どうやら従兄弟達はお気に入りの武将は自分だけが使って良いという取り決めをしてたみたいで、眼帯のやけにカッコいいおじさんの夏侯惇は兎も角なんか野生児みたいな見た目の魏延は何が良いのかさっぱり分かりませんでした。更に言えばぶっちゃけ当時彼らが一体何のゲームをしているかすら理解していなかったのですが。


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真・三國無双8より魏延

 そんな武将、魏延ですが、野生児みたいな見た目と述べたように、真・三國無双三国志演義では割と酷い扱いをされています。真・三國無双だとカタコトな上に「戦イコソ、スベテ!」とか言わされてる野生児として登場します。更に京劇の面みたいなものを被っていて素顔すら出ません。

 三国志演義だと劉備に帰順するや否や「裏切りそうな骨格してるから斬るべき。」と諸葛亮に言われたり、ある戦の撤退時に「ついでにあいつも殺しとこう。」と味方に罠に嵌められたりします。三国志演義は史実をベースにした創作なので、ある意味はるか昔から創作の被害者とも言えます。

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帰順したのにノータイムで殺されかける魏延

横山光輝三国志より)

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敵を罠に掛けるついでに味方に殺されかける魏延

 さて、ここまで読んで、多分メインの人物じゃ無いんだなと思われた方がいることでしょう。そうです。魏延はどこまで行ってもメインキャラではありません。だからこそ誰かと話したくなるし推し武将にもなる。ゲームならモンハン、漫画ならワンピースの話だけじゃ息が詰まるでしょう。多少マイナーだって漫画ならコミックボンボンの話をしたいじゃないか。マイナーだっていいじゃない、そんな瞬間あると思います。 

 さて、今回紹介するのは三国志解説YouTubeチャンネル「試験に出る三国志」を運営している久保カズヤさんによる小説「三国志〜継ぐ者達〜」です。

Kindle 全1冊完結)

 こちらの本はサブタイトルにもある通り、ある種の後継者達を題材にした三国志の短編集になります。国内のゴタゴタの対処のために同族を国に招いた結果、まさしく庇を貸して母屋を取られた男「劉璋」、魏の建国者曹操の系譜を継ぐ2代目魏皇帝「曹叡」、力が物を言う西涼から中央にやって来て皇室を意のままにした暴君董卓の配下の猛将「郭汜」、そして劉備および諸葛亮亡き後国を守ろうとした将軍「魏延」非常に魅力的な人物たちでありながら、「未だ嘗て小説の題材になんてならなかった男たちが全員集結!」って感じですね。

「乞食、罪人、異民族、奴隷、とにかく嫌われ者が集まった。生きづらい世の中を生きるには、天下を変えるしかないと、酒に酔った劉備は泣きながら何度も豪語していた」

「それは今も」

「あぁ、何一つ変わってない。今も多くの嫌われ者が集まっている。法正、孟達張松、皆心当たりはあるだろ?」

(短編、劉璋より)

 まさしく、小説内で描かれている通り歴史や創作の中で「乞食」まではいかずともとにかくパッとしない奴らばかりを描いた短編です。

 様々な創作において「劉璋」はとにかく英雄「劉備」の対比として、優柔不断な頼りない領主の扱いを受けています。魏呉蜀のうち蜀となる益州は彼が治めていたのですが、英雄「劉備」からすれば漢室復興のための中ボスくらいの扱いなのでそう描かれるのも仕方ないのかもしれません。 

 魏と言えば黄巾賊の乱の討伐、反董卓連合、倍する敵袁紹を倒した官渡の戦い、果ては劉備孫堅の連合軍に火計で船団を焼き払われた赤壁の戦いなどを挟みながらも常に勢力を拡大し続けた英雄「曹操」。その息子で漢室を滅ぼし自らを皇帝と号した「曹丕」。

 そして2代目皇帝とならんとする「曹叡」は勢力が安定した以降の後継ぎであり、英雄である祖父「曹操」の様に各地を転戦する様な活躍はしていません。どうしても「英雄」と「初代皇帝」と比較されるとパッとしないのは致し方ありませんが、それ故の苦悩は勿論あったことでしょう。wikiあたりを調べてみるとイケメンな上に割とまともなのに、地味。

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玉座に座る曹叡、凄くまとも。

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有能な部下は別方面でピンチなので自ら打って出る曹叡

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さらっと大勝利する曹叡

 そして暴君の董卓配下の武将「郭汜」。この「郭汜」は正史では珍しく一騎打ちをした記録もありその相手は有名な呂布。一騎打ちでは引き分けとなるものの、その後の戦では呂布を負かしています。

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折角の活躍シーンの筈なのに顔が出ない「郭汜」

 暴君董卓は配下の呂布に殺され、その部下も散り散りになって董卓軍は滅びて行きます。董卓は政変のゴタゴタの中で武力を持った自分の手元に皇帝が転がり込んできたことから権力を掌握していきます。董卓は当時の群雄の一人として、当然無能な筈は無いんですが、そこはどうしても専横を極めた上で負けたためか、演技だと良いエピソードがかなり少なめです。

 そんな董卓軍の武勇第一と言えばやはり呂布のイメージ、次いで華雄あたりが有名ですが、史実の働きでは肩を並べてもおかしくなさそうなのに3人目で郭汜が上がるかと言うと怪しいところです。ちょっとダーティーな勢力の3番手にギリ名前の挙がらなそうな可哀想な武将、それが郭汜だと言えます。

 怪力を誇り、武勇に優れており、董卓亡き後は皇帝を確保して略奪を行いつつ、同僚のちょっとオカルトにハマってる李傕と協力したり仲違いして李傕の数万の軍勢を数百騎で打ち破ったりと明らかに強いのに仲のいい同僚含めてぱっとしないのはどうしても郭汜が活躍した時期が三国志のプロローグにあたるからでしょうか。略奪は論外としても、当時の善悪の感覚から言って地方から出てきて皇帝の進退に口を出してとなるとまぁ超悪人の誹りは免れない気はします。負けた側として悪く描かれるみたいな要素を差し引いてもまだ悪人な感じしますね。

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真・三國無双5Empiresより。

物持ちがいいので郭汜・李傕のツーショットが撮影できた。このモブ2人感

 ただ、負けなければ都まで焼きはしなかったと思うと、やはり群雄は勝ち続けなければならないということでしょうか。勝てば英雄負ければ山賊とはある意味素晴らしい時代です。勝ち続けて稀代の英雄の右腕となった郭汜を観てみたかった気もします。

 魏延も郭汜も負けなければ、もう少しまともな形で歴史&創作に名を残した気がしますが、負けてしまったが故にちょっとした残念な扱いになっているあたりが無情を感じさせます。

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残念な扱いをされる魏延

 我々も、雇われ人として生きるならば、いつ権力争いに負けて魏延や郭汜になるか分かりません。そんな時、せめて「あの人、有能だったんたけどね…」と庇って貰えるよう精一杯生きようという気持ちにさせる一冊でした。

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ボーナスキャラ扱いの魏延

 「俺、武将で言うと〇〇みたいなタイプかも」と言ってくるうざい上司が董卓に見えた方、頭の骨の後ろの方が出っ張ってて最近角が生える夢を見たタイプの方、そして三国志の見方を少し変えてくれる小説を読みたい方におすすめの一冊です。

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