フェチの話をします。私は「ある目的のために誰が見ても立派な人物を演じて過ごす。」フェチです。なぜフェチに感じるかと言いますと、自分でも頑張ればできそうで、演じれば演じるほど素の自分が分からなくなりそうな恐ろしさが一つ。そして、何やかんやできっとボロが出て瓦解するだろうという自分にできないことへの憧れが一つです。
創作物で見かけるようで見かけないシーンですね。割とレアな気がします。もし、同志がいればこんなシーンがある作品を教えてください。私が思いつく具体例で言うと森薫先生の「エマ」でエマと結ばれないことにヤケになったウィリアムが父や社交界が望む理想の貴族として振る舞うシーンが思い浮かびます。スマートな立ち振る舞いのウィリアムに惚れた子爵令嬢がちょっと相手が可哀想過ぎる感じもしますが…。
こうなって
こうじゃ。
ただ、惚れた相手に自分を良く見せようなんていうのは、上は小粋なレストランにエスコートしようから下は惚れた相手の前で屁をこかない様にしようまで多かれ少なかれ誰しもあるものです。そんな惚れた相手に合わせて自分をチューンアップする姿に人間としての理性と情熱を感じるのです。というか純粋に「演じる」という行為がお洒落ですよね。
今回紹介するのは、自分の(理想の)相手を前にして、どうしようもない想いから演じる恋愛漫画、カネタケ製菓先生の「ブックイーター」と「ストロベリーゴーラウンド」です。
ブックイーター(全2巻完結済)
ストロベリー・ゴー・ラウンド(全1巻完結済)
ブックイーターはある高校・大学のサークルで繋がった人物達による連作短編漫画です。グッと来た異性をゲットするために土鍋を買う高校教師、真面目すぎるバイトの女子高生を仕事に馴染ませるために宇宙人を自称するお兄さん、互いの家族を巡る傷の舐め合いみたいな恋愛を腐らせ2人など割と個性的な恋愛話が多いです。
ブックイーター巻末より。こんな感じ。田舎ばりに人間関係が濃い。
土鍋カップル。女性の方がかなり独特の哲学の持ち主。
共通の趣味でちょっと緊張を解すはずが軽く惚れられるメガネ。
今回ブックイーターのなかで特に紹介したい短編が「キリスト教徒、医者、肉食に一家言持ち」の変人が恋人の為に理想の自分を演出する「新しい皮を着て」です。
顔がいい変人に惚れられたいと言うのは老若男女割とメジャーなフェチだと思うのですが、この話の主人公、朱実さんはあんまりグッと来ていない様で「この超変人は何故自分に惚れているのか?」と疑問を持ちます。実際問題「おもしれー男・女」が居たところで、お付き合いに向けて価値観をすり合わせて行けるのかは難しい気もしますので超理性的な判断だと思います。
「割と普通な私のどこに惚れたの?」は当然っちゃ当然の疑問
とはいえ、朱実さんのやることをやっている腐れ縁なのにお付き合いは無理というムーブは中々鬼畜な気もします。そんな訳で、スペックの高い変人真白さんが肉食うんちくに蓋をして婚活市場で引く手あまたな常識人の医者にクラスチェンジして全力で朱実さんを落とそうとするのが本作です。
「変人のイケメンが私のために全力で普通のイケメンムーブしてくれてるのだが。」
さて、打って変わって普通のイケメンムーブをしてくれる様になった真白さんは、焼肉屋カニバリズムデートから鎌倉精進料理デートに方針変換。プロが演じると食生活まで変わってくるんですね。
会話からレストランまで変えてくる真白さん。
でもやることまでやってるくらいには惹かれていた変人が、急に見もしらぬ他人みたいな振る舞いをする様を見せられて常識人な朱実さんは「別にその普通のイケメンは望んでない!」と伝えます。冷静に考えると「何考えてるか分からない。」への回答が「理想のイケメンを演じます。」なのキャッチボールになって無いので凄く真っ当な反応なんですが。百歩譲って「この想いが通じないなら、理想のイケメンを演じられるくらい本気だって分かってくれよ!」くらい?だいぶ行間読んでて大学入試の国語なら部分点も貰えなそう…。朱実さんファンキーな見た目以外は凄い普通の女の子なので、「まだ人肉の話してた頃の方がマシだよ!」と伝えた訳なんですが、我に返った男は自分の身になぞらえてツガイの来ない巣を作り続ける動物園のヘビクイワシの話をします。
ヘビクイワシかあいそう。
真白さんが朱実さんのどこに惚れてるかはあんまり分からなかったのですがとりあえず本気だということだけ分かったのでOKです。〜Happy end〜
他の連作短編にも出てきては尖った変人ぶりを見せつける真白さんですが、結局誰にでも好かれるは特定の誰かに刺さるという訳ではなく、やはり素の自分を好きになってくれる、ありのままの自分を見てもらえるという恋愛の一番心地よい部分がここにあります。
美味しんぼで喩えると、カッコつけてフランス料理のレストランにエスコートした後に本当の自分を見てくれとラーメンの屋台でラーメンライスを全力で啜った男いたじゃないですか?ラーメンライスの自分で居たほうが自然体で、そして自然体の自分を愛してほしいものじゃないですか?
美味しんぼより。
とはいえラーメンライスの食べ方に名前を付けてるのは引く。
演技の必要の無い恋愛という全チェリーボーイが憧れるシチュエーションが大好きな方にオススメです。
さて、もう一作「ストロベリー・ゴー・ラウンド」はキリスト教系の女子校に通う通称「ぜらちん、くーやん、戦艦」の3人が慣れない恋愛に振り回される話です。
手前で変なポーズしてる「くーやん」
黒髪の「戦艦」
おさげでメガネの「ぜらちん」
ぜらちんは小学生の頃からの彼氏が居て、将来結婚しようと(主に彼氏が全力で)外堀を埋めています。くーやんは通学中向かいのホームで「趣味の園芸」とかを読んでいる男子が気になって旧軍の双眼鏡使ったりしつつ軽くストーカーしてます。
ぜらちんと外堀を埋める彼氏
何やかんや知り合いになったストーカー相手の琴線に触れるくーやん。
「植物とか樹形図」が好きとか言ったら周りに引かれるじゃんとかなり真っ当なことを言うストーカー相手に対して「フィナボッチ数列に従う植物」の話をするという満点回答を叩き出すくーやんも素敵なのですが、今回簡単ながらメインで紹介したいのは戦艦のあだ名を冠する三笠女史を取り巻く恋愛ですね。
三笠さんはそんなにお固い訳ではないんですが、力強い雰囲気と名字から戦艦とあだ名されています。そんな戦艦は普段からモン◯ンなんかを一緒に遊んでいたちょっと間抜けなくーやんの兄「徳丸磯良」が実は頭が良かったことを知りギャップで軽く惹かれていきます。割と真面目に進路相談なんかをする中、運が良いのかなんなのか磯良君も割と戦艦のことを憎からず想っており夢の国デートに誘われるのですが…。
こんなことってあるかよ。
とんでもない性善説で動いている磯良君は大学の同級生達と戦艦を「俺が仲いい奴ら同士だし仲良くなるっしょ。」「進路で悩んでるなら先輩の話色々聴けたら良いっしょ。」と、悪夢の様な場をセッティングします。知ってか知らずかイケメン磯良に惚れている女性が2人いる所に高校生をぶち込むというのもなかなかの鬼畜ぶりです。
ただ、これもある意味磯良君が「戦艦のためを想ってやった。」「戦艦の前で格好をつけたかった。」という好意と駆け引きから来たものです。まぁ出力された結果は割と地獄なのですが…。陽キャ怖いよ。
駆け引きが無いとこんな感じ。
私は、駆け引き無しで好意を伝えてくる磯良君の、変化球投げまくったあと真っ直ぐ歩いて来てぶん殴って来る的な感じがグッと来るんですが「駆け引きが最初から無ければな。」と少し冷める戦艦の姿が淋しいです。この後は描かれていないのですが、戦艦が轟沈するのか生還するのか是非読んで想像して頂きたいです。
さて、やっぱり演技も良いのですが素の自分をさらけ出す、受け入れてもらえるという関係性は良いものです。演技が演技じゃなくなるのも恋愛の醍醐味でしょうし。カネタケ製菓さんの作品、最近フェチを感じていない方にオススメです。
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