最近積読も多いですし、とりあえずは山を崩すかとKindleのライブラリと自宅本棚を見て読む順番を決めております。最近、ふと目に入ったのが「獣の奏者」の合本版です。アニメ化もした結構なファンタジー大作なのですが、年末年始なんだか寂しくなってきた私は、そういやこの作品、恋愛要素も無くはなかったなと思い読み返すことにしました。
完結済
アニメ化もしてます。
この作品は馬のように機動用の兵器として「闘蛇(とうだ)」と呼ばれる地を這う竜の様な生き物を育てていた母娘が運命に翻弄されて国を追われ、闘蛇の天敵であり、王権の象徴である巨大なワシの様な生き物「王獣(おうじゅう)」を育て、国家の権力争いに巻き込まれていくという内容です。
本作の主人公「エリン」は少女の身の上で国を追われ、拾われた先でメキメキと頭角を現し、王獣を育てる学舎に入ってケガをした王獣「リラン」を見事に育て上げると共に、学舎の優秀な先輩の「トムラ」とちょっといい感じの雰囲気になったりします。エリンは、野生の王獣は空を飛び、子を為すのに、学舎で育てる王獣は何故空を飛ぶことも交尾をすることも無いのか、持ち前の探求心で見事明らかにして行きます。
主題歌はスキマスイッチの「雫」でちょっと王獣っぽい歌詞がマッチしてます。
有名になりたい訳では無いのに、王獣のことを想っていたらすぐ色々功績を上げてしまって追放先なのに王族の目に留まっちゃうという「また何かやっちゃいました?」系ヒロインのエリンですが、王族の目に留まったせいでチャラい王族にナンパされたり、王獣と闘蛇、そして生まれ故郷の大公領と追放された先、真王領との諍いに巻き込まれることになります。
エリンと幼い王獣リラン
大公はあくまで真王の家臣ですが、異国との戦いを一身に受け持ち、なんなら流通や経済的な分野でも真王領を凌いでいます。まるで「あんまり口は出さないけど部下のことを見下している創業者一族、(真王領及びその領民)」と「実務を全て行っている叩き上げの取締役(大公及びその領民)」みたいな構図が代々続いてきた結果、両者の関係はもう爆発寸前なのですが、主人公エリンはその諍いに王獣ブリーダーとして巻き込まていきます。そして、その渦中で真王の護衛「堅き楯(セ・ザン)」の実力者「神速のイアル」と出会うことになります。
さて、メインストーリーはあくまで大公領を追われたエリンが王獣の世話をする内に国家の成り立ちや暗部にまで関わっていくというファンタジー大作なのですが、本記事のタイトルにガッツリネタバレありで書いてある通り、しれっとエリンがイアルと結ばれていく物語でもあります。本作は5巻まであり、2巻で大体国の諍いは解決するのですが、3巻になると冒頭でエリンとイアルの間に2人も子供が生まれています。「神速」ってそういうこと?
この辺り、昔高校の頃だったか中学の頃だったか、獣の奏者のアニメと小説を読みながらクラスの女子と「エリン、イアルとくっついちゃったよ。トムラといい感じに見えたのに…。」と盛り上がったものです。
今回、久々に「獣の奏者」を再読したということで実際トムラが何故イアルに勝てなかったのか、軽く分析してみたいと思います。まず冒頭にあるトムラとイアルの紹介文を見た後、スペックを纏めてみましょう。
トムラ:カザルム学舎で学ぶ男子学生で先輩
イアル:真王の護衛士「堅き楯(セ・ザン)」の一員
事実を抜き出しただけで、既に何かもう負けている感じがする…。トムラ先輩は悪くない筈、逆にどんな男なら「堅き楯(セ・ザン)」に勝てるんだよ。スペックなら、スペックなら負けてない筈!
トムラ
- カザルム学舎の首席
- 首席故、ケガをした王獣「リラン」の世話を任されていた。
- エリンのためにイヤイヤながらも王獣の世話を手伝い、次第にエリンを認めていく。
イアル
- 「堅き楯」の一員として最も多くの刺客を殺し、「神速のイアル」の異名を持つ。
- 悲しい過去がある。
- 手先が器用で箪笥とか作れる。
スペックだけだとトムラがほぼほぼ優しい用務員のおじさんに見えてきました。イアルはイアルで腕っぷしが強いモデラーみたいですが。
エリン自身、大公領を追われた先で、かつてある学校の教導師長をしていた養蜂家に拾われて養蜂のみならず身の回りのことと医学やなんかまで教わってきていたので当たり前のように飛び級で学舎に入り、最終的には首席となっているのでどうしてもこう、ブリーダーとしての腕を加味すると、トムラがエリンの下位互換に見えてしまうのが哀しいところです。
養蜂家(イメージ)
作中でバキよろしく修行パートがある。
あと再読して気づいたのですが、原作小説でエリン目線のトムラの描写少なすぎる…。唯一と言っても良いトムラのことを考えた描写がこれです。
エリンはあたりを見まわして、ふと首をかしげた。草原を、夕暮れの風が静かに渡っていく。なんとなく、トムラがそばに立っていたような気がしたけれど、思い違いだったのだろうか。 実際には、トムラは、なにを問いかけても生返事しかしないエリンに呆れはてて、とっくに宿舎に帰っていたのだが、エリンは、いつトムラが脇に来て、いつ帰ったのかも覚えていなかった。
色々と(厩舎を改装したり、掃除したり)手伝ったのにほぼ空気みたいな扱いをされているトムラ先輩。あと生返事しかしないせいで、呆れられているという、トムラ先輩に脈がある無しに関わらず、このヒロイン、トムラ先輩ルートに行く気が一切ない…。
一方でイアルの方はというと、王獣を観に行幸に来た真王一行に居たイアルと軽く話した後の感想がこちらです。
窓に映る自分の顔を見ていると、今日、出会った人々の顔が頭をよぎった。 不思議なことに、一番心に残っているのは、真王でもダミヤでもなく、人々の背後にひっそりと立っていた武人の姿だった。 その姿が心に残っているのは、独特な雰囲気のせいなのかもしれない。あの武人は孤独な静けさをまとっていた。――誰もいない、冬の森のような静けさだった。 ほとんど口をきくこともなく、ほかの武人たちのように厳しくこわばった表情を浮かべるでもなく、常に、人々から一歩離れたところにいた。
イアルは静かに佇んでいるいるだけなのに位置取りまで把握して居るほど印象に残っている…。原作小説だと圧倒的にトムラ先輩に勝ち目がない。
金田一少年犯人たちの事件簿より
なんか小説の地の文だと普通に一切脈が無いトムラ先輩なんですが、アニメだとツンデレを発揮していたり、手作り弁当をエリンに渡していたり、好きな人が居るのか尋ねたりとかなり積極的にアプローチしていた様で、その辺りが印象に残っていたのでしょう。恐らく悲劇で幕を開けた激しい序盤と比べると、養蜂家のおじいさんとの修行パート、王獣に餌をあげるために工夫するブリーダーパートと中盤にアニメ映えしないシーンが続くことからテコ入れのために攻略対象として彼が出てきたのでしょう。
ミクシィコミュニティがあった。20人はファンがいるぞトムラ先輩!
このモブ顔。
一方でイアルはエリンに無い身体能力と自らを文字通り盾にして暗殺者より真王を守る姿と生い立ちからちょっと陰がある感じが通じ合うきっかけとなったのでしょう。あと、ラスボスに「あいつは女遊びもろくにしない。」と何故か良い点をお墨付きされてたりしましたし。
イアル。ルックスがイケメンすぎる。
イアルのミクシィコミュニティにはコメントが大量に付いていたのとイラストまで投稿されていた。
久々に再読すると本来争いのない所に、ミクシィコミュニティまで持ち出して争いを生み出した私の醜さと、アニメスタッフのテコ入れに気付くという、トムラ先輩の傷口に塩を塗り込むだけという哀しい結果となりました。まさに「勝ちに不思議の勝ち有り、負けに不思議の負け無し。」という感じの結果です。
合本版の巻末には作者の上橋菜穂子先生への50のインタビューという往年の企画っぽいものが載っており、最後の晩餐は「最高の薄切り和牛を炒めたものに、ねぎとポン酢醬油をかけて、真っ白いごはんといっしょに。」とかだいぶ楽しいインタビューに答える上橋菜穂子先生が見られるのですが、そこにおいても、以下の通り書かれており、トムラは眼中にも無かった様です。
語尾の「っす」とか「(笑)」が素敵な上橋菜穂子先生。
男女が出てきたらとりあえず誰と誰がくっつくかな?と考えたい人にオススメの作品です。最近中々無い本格派ファンタジー小説の雰囲気を味わうと共に、存在しなかったトムラ先輩ルートに是非思いを馳せてみてください。
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