読んだら寝る

好きな作家、本、マンガについて紹介

全力で主人公になろうとしてる奴はもう主人公だろう〜円居挽先生の「京都市民限定で求人が出ているとあるバイトについて」

 自分が何者になるかなんてもうあんまり考えなくなって来ました。昔は昔で若さの勢いだけで生きてきたので、そういう意味ではどうなりたいかなんて今まで全く考えて無かったのかもしれません。今なんか自分のBMI気になるなーとか資格の勉強しなきゃなーとか考えつつピザ食べて本読んでいる日々です。

 

 小説も映画もゾクッとした作品。

とはいえ自堕落に過ごしている。

 ただ、やっぱり若い頃から本を読んできて憧れる存在と言うのは常にいた気がします。中学1年生くらいの頃は圧倒的に犀川創平と保呂草潤平だった訳ですが、やはり中2にもなるとハマりますよね、ライトノベル。一瞬で「口先で天才や殺人鬼たちとわたりあう本名不詳のイカれたあいつ」がトップに躍り出て来ました。

 

 無闇矢鱈と助教授に憧れた頃。

イカれたあいつ。

 今回は、私と同じく「口先で天才や殺人鬼たちとわたりあう本名不詳のイカれたあいつ(他数名)」に脳を焼かれたキャラクターが主人公の小説、円居挽先生の京都市民限定で求人が出ているとあるバイトについて」を紹介します。

 

カクヨムにて連載中

 本作は、ど田舎で生まれ育ちその一部となることを良しとせず、数々の創作物から「京都の学生生活」に憧れて進学した主人公、神田祟(かんだたたる)が、茫漠とした4年間の大学生活を取り戻そうとする話です。入学して数年はコロナ禍で青春が失われ、以降も創作物の様な生活を送れなかった祟くんは、自らが孤独ではなく好きで孤立しているのだと感じるために時折全財産を持ち歩くことを趣味としていました。

 そう言った行為も有ってか、夜道で胡散臭い浅葱色の袴の男に出会い、全財産の10万円と4年間で大学を卒業できる権利と親からの学費と仕送りを生贄に自身が望んだ物語の様な生活を手に入れることになります。生贄に捧げた物が中々に大きすぎる気もしますが。やはり人は何かの犠牲無しには何も得ることができないのかもしれません。

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鋼の錬金術師1巻より。

 そういった様々な犠牲の甲斐もあって、祟は、美人の女店主が営む古道具屋を仲介として、タイトルにもある様に「様々な裏バイト」に携わっていくことになります。胡散臭いバイトをするなんて主人公の極みですからね。

 

胡散臭い叔父の店でバイトする作品

ついでに女店主を嚆矢に、関わるものを虜にするオレンジ髪の男子高校生、着物を着た褐色の美少女に、幽霊が出るアパートのオーナーなどと出会い、彼が恋焦がれた京都の生活が舞い込みます。

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単行本扉絵より登場人物たち。

 正直、10万円や学費を犠牲にしてまで京都に物語を求めるのはこう、高速道路に自転車で乗り込む様なイカれ行為としか思えないのですが、祟くんは、いざ高速道路に自転車で合流したら、頑張って法定速度を出して運転するかの様な「危険に顔を突っ込みたがっているのに事故は絶対に起こしたくない。」という独自のバランス感覚で動いています。読んでいると傍から「こいつ、イカれてやがる…。」となるあたり、「狂人の真似とて大路を走らば即ち狂人なり」というか「主人公になりたい!と言いつつ既に主人公になっている」感があります。

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HUNTERXHUNTERよりボマー。

やっぱりイカれてやがるって思わせれば勝ちですからね。

 実際にバイトを通して巻き込まれた事件の数々は機転と胆力で乗り越えていますし、茫漠とした4年間の大学生活の様に後悔したくないという思いから報酬を求めながらも「金で買い戻せない行為はしない。」と一本芯の通ったムーブをしており、それが彼の魅力となっています。読んでいて思ったのですが、「ヒーロー」より「全力でヒーローになろうとしている奴」のほうが魅力を感じるタチなので祟くんのこの主人公ムーブはかなり刺さります。

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アイシールド21より葉柱ルイ

こういうのが刺さる。

 とはいえ、バイト自体は報酬の高さも相まって危険・心霊・怪奇現象が目白押しです。具体的には泊まり込みで隣室の幽霊を観測するバイト、子供の部屋で鳴り響く金切り音を解決するバイトに、マヨイガのように百歩以内であれば富を持ち帰るのことのできる「百歩の家」、呪いに利用されるTwitterアカウント「リアル京都市bot」などシンプルなものから既存の怪談とは一味違う作り込まれた怪異が多々あり、報酬の美味いバイトの裏が晒される度にゾワッとすると言いますか、ホラーや怪奇小説としての魅力も白眉となっています。作り込みで言うと、とある人物が目隠ししていた理由とか凄く好きでしたね。作家の想像力ってそういう所まで及ぶのかと。

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チェンソーマンより。

 あと、幕間のラーメンレビューや呪いに関するスクラップが世界観の掘り下げにガッツリ寄与しておりこの「物語外からも刺しに来てる感」かなり好きです。

 最後に、私は地元愛が結構強いので、江戸っ子だとか京都民だとかを全面に押し出されるとちょっとだけ抵抗があるタイプです。土地が魅力的なのは分かりますが、そんなに有名地が偉いのか、その土地である必然性はあるのか(それ大分県でもできるんじゃない?)と意地悪なことを考えてしまいます。そういう意味で本作は、主人公のように「外部から京都に憧れた人間」と古道具屋の女店主のように「ずっと京都の物語の一部として生きてきた人間達」それぞれが違った想い・願いを京都に対して抱いており、この両立は、ただ魅力的な土地というだけではなく、歴史ある古都京都でしか出来なかったように思われます。大分県でやっても多分、地元民も旅行客も温泉ととり天くらいしか興味持たなそうですし。

 まだ連載も続いており、不穏な雰囲気で終わった本作の続きや主人公を巡るヒロインレース?が楽しみでなりません。私は、時折女装するオレンジ髪の男子高校生がエッチでいいと思います。

 そろそろ平凡な日常に別れを告げ、物語に身を任せてみようかなという方にオススメです。

 

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