読んだら寝る

好きな作家、本、マンガについて紹介

竹田人造さんの「AI法廷のハッカー弁護士」〜5年ぶりに逆転裁判の新作が出てた。

 人がやってるのを見るのは良いが、自分がやるのは御免だというものが世の中には多々ありますが、私の場合は裁判です。何故なら恐らく訴えられる側しか想像できないからです。訴えられるというのは恐らく親権が取られることを意味している気がします。それは嫌だ。

 さて、裁判を見るのは楽しいなんて様々な書籍やブログ、はたまた漫画で紹介されていますが平日に裁判所に行くこと自体が社会人にはハードルが高いです。そんな私が裁判を感じる瞬間といえば唯一、逆転裁判シリーズです。

小学生時代にゲームボーイアドバンスでアホほどループした思い出の裁判。

 

 個性的な弁護士、検事、サイバンチョをはじめ証人にインコやロボットやはたまた霊に至るまでが登場するCAPCOMの誇る法廷アドベンチャーゲームですね。法廷を題材にしたゲームの唯一にして頂点といった趣きです。しかしそんな名シリーズも2017年に出た大逆転裁判2を最後に新作が出ません。と思っていたら出ていました。ハヤカワから。

 それがこちら、竹田人造さんの「AI法廷のハッカー弁護士」です。

全1冊。

 本の内容の紹介の前に少し言いたいことがあります。この本、文庫書き下ろしとかではなくソフトカバーらしく2310円(Kindleだと2079円)もします。長らく評判が良かったのに手に取らなかったのもこのあたりの理由です。ちなみに本作をアマゾンのほしいものリストに入れて購入するか(値引きしないかなと)悩んでいた私は、今度講談社から「ゴリラ裁判の日」という小説が出るということを知り、「ウホウホ言う裁判の前に普通?の裁判の本が読みたい。」と本作を手に取りました。そんなよくわからない動機で購入を決めた私ですが、読み終わった今、この価値はあると断言できます。もちろんそこそこ金額はでかいです。割と単価の高いハヤカワ文庫でも3冊くらい買えるお値段です。えっ!ソフトカバー1冊で文庫3冊分の満足感を?


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漫画スーパーくいしん坊より。

 表題にある通り、この本はSF法廷エンタメ小説にして実質逆転裁判の新作です。コンシューマゲームが5000円として既に本の価格を超えてますね?そういうことです。だから大丈夫です。逆転裁判の新作欲しさにCAPCOM大名行列に向かってそろそろ直訴しようかなと考えている無礼討ち覚悟の方にこそ手に取っていただきたい作品でした。

 さて割と不要な感じのする前置きをさておいて、内容を紹介していきます。

 この本は4篇の中篇からなる小説です。審理の迅速かつ公平、そして種々の利権が絡み合いAI裁判(官)が導入された日本。主人公の機島雄弁(きしまゆうべん)は魔法使いを自称する不敗と言われる弁護士であり、いつものように金と名声が手に入れられそうな世間の注目度の高い裁判の弁護人となっていた。その事件とは密室殺人。ふたりで酒を飲んで眠り、起きたら一人にナイフが刺さっていたというシンプルな事件。その場から逃走し、誰がどう考えても犯人としか思えない被告人、軒下智紀(のきしたともき)の弁護を引き受けた機島はあっさりと軒下の無罪を勝ち取ってしまう。事件は一件落着かと思いきや、ひょんなことから軒下は機島が実はAI裁判官をハッキングして無罪を勝ち取ったことを知ってしまう。軒下は知った事実と引き換えに機島に友人が亡くなった真実(真犯人)を明らかにしてほしいと交渉を持ちかける。

 ざっと1話の内容がこんな感じです。近未来のSF+ミステリー+法廷物というのがいい塩梅で混ざり合っていて色々乗った海鮮丼みたいです。そして事件を取り巻く謎を彩るのが小粋な会話劇です。独自に捜査をする軒下くんと機島のやり取りはさることながら、怪しいオンラインサロンにハマりがちな検事田淵、機島にAI裁判官の情報を提供するクラッカーよりのハッカー錦野(にしきの)そして個性的な犯人。カオスな審理。異議あり!って叫ぶ弁護士&検事、全部逆転裁判で見た(今後更に見る予定の)やつです。
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Switchに移植されたのに思ったより公式サイトが時代がかってる気がする。

 逆転裁判あるあるとして、犯人がわざわざ証人として裁判にやってきたり、冒頭で犯人が殺人を犯すシーンから始まったりと序盤は割と誰を追い詰めて行くのか明らかな場合が多いんですが、本作でも2話まではその流れを組んでいます。そんな中でも、どう犯人を追い詰めるのか?とは別にどう裁判官をハッキングする(した)のか?と考えながら読むのが本家とは一味違っていて非常に楽しいです。


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2話冒頭で殺人を犯すドクター・オクトパスみたいな犯人。(画像はドクター・オクトパス本人。)犯人の中で一番好き、腕の数でマウントを取ってくる。

 さて、「2話までは」というと以降はどうなんでしょうか?2話のドクター・オクトパスみたいな犯人と丁々発止のやり取りをしたあと、なるほどこういうコメディタッチで行くのね、と思わせておいて急転直下の3・4話。ネタバレを避けて説明するとコメディ裁判ミステリーかと思いきやあるシーンで急にシリアス度が増し、なんならややホラーの沼に両足を突っ込みます。気圧差のせいで読んでて普通に鳥肌が立ちました。ネタバレに配慮して言える範囲で言うと、狂ったAI裁判官が有罪判決を垂れ流すとめちゃくちゃ怖い。そしてこういう段々とアクセルがかかっていく展開、やっぱり逆転裁判じゃないか!

 AIならではの問題点、そして闇、最後のハッキング、ぜひその目で確かめてください。特に最後のハッキングシーンは他人が書いた小説なのに何故か自分の手柄の様にドヤ顔できること請負です。
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ややドヤる主人公(画像は逆転裁判3より)

 そして「逆転裁判が面白かったから…」という理由でこんな名作を上梓された竹田先生に感謝を!

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浅見ヒッポさんのみなそこに澄む世界〜川に飛び込むタイプの田舎の思い出

 日本の人口は特定の都市に集中しているので、大きく分けると田舎に住んでいる人と都会に住んでいる人に区分できます。

 そうなると少年時代の過ごし方としては、都会から田舎に転校してきて馴染めないでいるうらなりの男の子とそんな彼に苛立ちを感じつつ、度胸を試してやろうと「そこの橋から川に飛び込めたら仲間に入れてやるよ〜!」と叫ぶタイプの男の子の2つですね。

 想像だけど多分菊次郎の夏にもそういうエピソードがある。

「田舎モノの癖に!こんなことでいい気になりやがって!僕も男だ!見てろよ!」と飛び込んだ都会の子は打ちどころが悪く頭から血を流し、恐る恐る近づいてみるとまだ息はあるものの、傍目には手遅れにしか見えない。そんな僕と友人たちの人だかりに気づいた青年団に所属している兄に「今日お前たちは何も見なかった!ええな!兄ちゃんがなんとかしたるから、早く帰れ!」と言われ、怖くなって家に帰った。夏休みが終わると担任の先生に転校生はサナトリウムに行ったと言われた。いまだにあのときの男の子の恨みがましい目が忘れられないが、自分を含めてあの場にいる友人たちは大人になり、みんなちっぽけながらも幸せな日常を生きている。どうしても聞けなかったが、あのとき兄貴は本当にあいつを助けてくれたんだろうか?わからない。真面目な兄は数年前から酒浸りになってしまった。たまに会えば金の無心をしてくるだけだ。なんとなく抱えた負い目もあり、少ない手持ちから酒代を渡す毎日。しかし、訊ねようにもなんと言えばいいんだ?あぁあの夏をやり直すことができたら。

 

日本の形でもあった気がする。そんな夏休み。
 誰しもそんな忘れ去られた夏休みの思い出があると思います。友人とかに覚えてるか?と聞いても嫌な顔をされるかはぐらかされるタイプのやつです。
 前置きが長くなりましたが、そういった田舎の思い出がギュっと詰まっているのが浅見ヒッポさんの「みなそこに澄む世界」です。

既刊1巻


 この物語は川がきれいな田舎町から10歳のの頃に東京に転校し、夏休みの間だけ田舎の祖父母の家に遊びに来る高校生の女の子の澪(みお)とその初恋相手の航平、そしてふたりの歳上の幼馴染で既婚者の咲和子の3人を中心とした話です。澪から航平への恋心と航平から咲和子への淡い想いが三角関係の様相を呈しています。


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キュンとくる三角関係の様相


 といっても田舎のラブとコメディとキャッキャウフフという雰囲気ではなく、航平は中学3年からに1年間行方不明となりましたし(そしてめちゃくちゃ不穏な感じで戻って来た)
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多分日本で1番怖い初恋の相手との再会シーン。


彼が行方不明になってからほどなくして咲和子は交通事故に遭い死亡。f:id:sannzannsannzann:20221115001749j:image

 そんななんとも言えない雰囲気の中、鬱屈としていた澪は久しぶりに川に飛び込むのですが、
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飛び込み1回目と2回目。主人公が1冊のうちに3回〜飛び込む稀有なマンガ。

 

川の底にあった、内部で魚の泳ぐ光る石を触った結果、別世界に飛ばされます。

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そこは、自分が元々居た世界と全く同じであり、祖父母の家に帰ると当たり前のように自分が生活しているのでした。


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自分とのファーストコンタクト。f:id:sannzannsannzann:20221115002800j:image

自分との恋バナ。

 さて、自分と仲良くなるという稀有な体験をしてのほほんとしていたのもつかの間。そういや帰り方わからない!とぷちピンチに陥っていると愛しの航平が助けてくれてめでたしめでたし。


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助けてくれた航平くん。

 

という訳ではなく、
1 川底の世界では咲和子は交通事故に遭わず生きていた。
2 航平は行方不明の1年間この川底の世界で過ごしていた。
3 川底の世界とは夏の間しか行き来できないこと。
4 航平(達)は川底の世界を利用して良からぬことを企んでいること。


などなど若干不穏なことか次々と明らかになっていくのでした。また、生き残った川底の咲和子さんも何やら隠し事があるようです。

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ゆるふわ歳上幼馴染が一瞬で怖くなるシーン。

 主人公の澪(達)がなんとか物事を穏便に収めようと奮闘するのですが、ここでちょっと斬新なのが相手の航平が複数な点ですね。航平(達)は1年以上前にファーストコンタクトを済ませている訳ですが、表(便宜上)と川底のふたりの航平には咲和さんの有無など差異が生じています。今のところ共同して目的に向かっているふたり(1人)ですがこの関係が破綻することも大いにありえます。

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24時間一緒にいるわけでもなく、違いが生じているふたり。


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スティール・ボール・ランより、自分と仲良くやれるタイプの人。

 

自分は自分とうまくやれるのか?裏切りあわないのか?というのもさることながら、彼らふたりは各々しか表と川底の出自であることがわかりません。傍から見ても全く同じ見た目をしているためです。ということは、入れ替わっても全く問題がありません。アリバイ作りにもうってつけです。そして見分けがつかないということは、他の登場人物もこの川底の入れ替わりを利用できる人がいる可能性があります。そして、2つの世界の唯一の差異である咲和子さん。なぜ差異が生じたのかはこの一巻を読めばなんとなくわかってきますが、この生き残り?の咲和子さんが物語の不穏さを盛り上げる一因になっています。この不穏な展開を持ち前の明るさと行動力でなんとかしないと!頑張れ自分(達)!といった感じの澪達が素敵な漫画ですね。


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恋する女の子(達)強い。

 そんな感じで「みなそこに澄む世界」の紹介をしましたが、このタイトル非常に綺麗ですね。敢えて「みなそこに」とひらがなにしているあたり、「皆、底に」とも「水底に」とも読める気がします。そして澄むというよりか、「棲む」といったほうが良いような展開。今後も目が離せません。とりあえず、川に飛び込むタイプの田舎が好きな方、思い出せない夏の日がある方はぜひ手に取って見てください。
 ちなみに作者の浅見ヒッポさんは元々WEBマンガで有名な方です。「空が赤く落ちる」は近未来のほぼ有事みたいな沖縄で、ある機械化(戦車ではなくロボ)小隊を中心とした陰謀を描いた作品です。こちらも作者の浅見ヒッポさんの不穏スキルが存分に発揮されているので、みなそこに澄む世界を読む前に、この作者さん合うかな?とちょっとおためしで読んでみてもいいかもしれません。私はわざわざPDF化してKindleにぶち込むくらいには大好きなWEBマンガです。

忍び寄る不穏、熊倉献さんのブランクスペース

 辛さを抱えると書いて辛抱。お元気ですか?最近良いことありましたか?私はZoomを使えずマイクロソフトのTeamsを使う上司とZoomを使える上司の間に挟まれていたところ、連日のTeamsの障害でようやくZoomに統一された、というのが最近あった良かったことですね。他は特に無いです。

 来週末にちょっとした試練が待ち受けているので残業したり残業したり、帰宅したかと思いきや息子を風呂に入れて再出勤したり楽しいです。ここまでやれば業務が全ていい感じになってくれても良さそうなものですが難しそうですね。私の未来に不穏な空気がぷんぷんします。昔、部署内が三国志みたいになったことがあり、非武装中立地帯となった私にそれぞれの国の陰口が集中し、えらくメンタルに負担がかかったことがあります。その三国時代の始まりみたいな空気が漂っています。不穏。能力は無くとも危険に敏感なのが私の長所だと思っていますが。

 さて、こうも仕事まみれだと日々の雑務の合間に空想に明け暮れるくらいしか娯楽がないです。映画LIFE!の中のベン・スティラーみたいな感じです。

ナイティナインの岡村さんが主人公の吹き替えをやっている映画、ライフ。ちょいちょい上司をボコボコにする妄想とかする。

 妄想といえば、クラスにテロリストがやってきた際にどう戦うかとか、ある日突然超能力に目覚めたらどうしよう?とかがあるあるでしょうか。私は小学生の頃、織田信長ドラえもんポジションで我が家に来たらどんな風に生活するかな?という妄想をよくしていました。今考えると割りとレアな気がします。しかしどうでしょう?妄想の中に行ってみたいと思う人でも、自分が脇役になる妄想ってあまりしないのではないでしょうか?もし、友人が眼の前でテロリストを血祭りに上げたり、ある日友人が超能力に目覚めたら、なんてあまり妄想しませんよね?ちょっと考えてみたんですが、前者なら普通に今後一切関わらないようにしようと思いますし、できるだけ避けてると思われないようにフェードアウトしていきたいです。後者でも、能力を知られた相手には然るべき処置をすると考える人もいるでしょうし、能力を知ったことを悟られないように努力すると思います。そう、特殊な妄想も自らが脇役になるだけで途端に危険しかない不穏な状況になる気がします。

 そんな不穏を安全圏で楽しむ漫画といえば熊倉献さんの漫画、ブランクスペースです。

 全3巻。最終巻は2022年9/29発売予定。

 

 この物語の主人公は、狛江という女子高生です。恋に恋する乙女な彼女は顔のいい男を見つけては告白し、撃沈するといった奇行を繰り返しています。

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開幕2ページ目で振られる主人公。

 そんな彼女が出会ったのは同じクラスの地味な優踏生の女の子、片桐さん。片桐さんは構造をある程度理解した物を自分にしか見えない透明な物質として具現化できるという能力を持っているのでした。

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透明な傘を持つ片桐さん。

 程なくして、能力はともかく友人となる2人でしたが、不穏なのはここからです。

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会話劇としても楽しい。

 片桐さんは静かな性格からクラスで陰湿ないじめを受けることになります。片桐さんは表立って反抗をしないのですが、ストレスがたまると風船を具現化して割って発散したり、それが癖になってストレスがたまると勝手に透明な風船が具現化するようになったりと鬱屈しています。しかし、どんなに鬱屈していててもそこは若者、銃の構造を調べて具現化し、全校集会中に体育館の窓を全部割ったりと中々サイコなストレス発散もやりきります。完璧にアメコミあたりでヴィランが生まれるときのレールにカチッとハマってしまった感があります。

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もう戦うしか無いの?みたいな雰囲気出してますが序盤も序盤です。

 いじめられていることには気づかずとも、そんな片桐さんの様子に気づいた主人公は彼女の能力の矛先を変えるべく、もっと楽しいことをしようと提案します。それは、理想の彼氏(透明)を作ること。
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パッと思いついたこの言葉がその後を大きく変えることに。

 自分の理解者を作ることに興味が湧いた片桐さんは、人体錬成というよりはパワーパフガールズみたいなノリで理想の彼氏を作ろうとします。


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パワーパフガールズよりユートニムウム博士。素敵なものをいっぱい。

 そして割りと簡単に、理解のある彼氏(透明)が出来上がります。これは、片桐さんが、①真面目な優等生だから図書館で調べ物をする根気がある。②事前に、嫌なやつを喰い殺す透明な犬を作ろうと調べ物をしていた。など複数の原因と1%の閃きによって成し遂げられます。

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理解ある透明彼氏。

 エルリック兄弟が泣いちゃいそうなくらいあっさりと錬成された彼氏ですが、対話は可能なものの片桐さんに対しても隠し事もあるようで、理想の彼氏ではあるものの、思い通りというわけにはいきません。


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鋼の錬金術師1巻冒頭より。母の肉体と魂、弟の魂を錬成して色々持っていかれたエドワード・エルリック

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理解のある透明彼氏を錬成して特に何も持っていかれていないうえになんならちょっと明るく可愛くなった片桐さん。

 これで一件落着かと思いきや、別にいじめは止まってないですし、更に二人が暮らす町でも徐々に奇妙な事件が頻発するようになります。f:id:sannzannsannzann:20220927021039j:image

町中で急な透明人間の出現。

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そして彼女達の前には?

 超不穏既刊2冊の内容でした。最後の3巻が楽しみなところです。個人的に一番不穏なのは、片桐さんは自らの意思に反して能力を使ってしまうことがある点でしょうか?人間を一度生み出せた以上、ストレスがたまって風船を発生させてしまう様に、いじめっ子ムカつく〜と透明な殺人鬼が自然発生する可能性すらあります。かなりの潜在的な危険因子になっている片桐さんを主人公は止められるのでしょうか?

 よろしければこの不穏な物語の結末を安全圏から覗いてみてはいかがでしょうか?危機管理能力がちょびっと増す気がします。

 

 

裁くのは「ぼく」。お前の罪を「ぼく」が量る〜辻村深月さんのぼくのメジャースプーン

 少し前Twitterに富樫先生が降臨され、最近もHUNTER×HUNTERの進捗についてガンガンTweetされており嬉しい限りですね。連載再開が待ち遠しいです。HUNTER×HUNTERといえば、多感な時期に読んだ方は水見式をやってみたり、自分がどんな念能力を手に入れるか妄想したこともあるんじゃないでしょうか?

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HUNTER×HUNTERより水見式。

私はどちらかというとコミカルなジジババに変な矢じりで刺されてオリジナルのスタンドをゲットしたり、未来予知できないかなーとか妄想してました。スタンドだったらスタンド名はミッシェル・ガン・エレファントが良いです。

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ジョジョで能力をくれるババアとジジイ。矢じりを刺されて能力が出なかったら死ぬ。

そんな話を友人にしたところ、友人は地獄堂霊界通信を読んでマントラ的なやつ唱えたりしたそうです。

タイプの違う三人の少年が霊に立ち向かう話。最近の子は妖怪アパートの幽雅な日常の方かな?

 しかし少年の頃はつくづくわかっていませんでした。特殊な能力なんて芽生えるはずが無いんです。芽生えるとしたら人知を超えた負荷が常に掛かっている社会人に決まっているじゃないですか。明日にも超能力が発現してタイム・リープし放題かもしれませんし、他人を意のままに操ることも可能になるかもしれません。しかし、静かに暮らすには強すぎる力に翻弄されることなく巧くコントロールしていくことが大事ではないでしょうか?そこで今回は能力をゲットしたらどうすればいいのか、小学生にもわかる感じで解説してくれる一冊、辻村深月さんの「ぼくのメジャースプーン」を紹介します。

ぼくのメジャースプーンは小学6年生の「ぼく」が大学の教授である「秋先生」に能力の使い方を習う物語です。「ぼく」は昔、意図せず幼なじみの女の子「ふみちゃん」に自分の能力を使ったことがありました。その能力とは相手に選択肢を2つ提示し、そのどちらかを選ばせる能力です。勿論、2秒でパリに行け!みたいな命令は無効で、能力を掛けた相手が実現可能なことに限りますが、「今ここで首を吊れ、それが嫌ならここから飛び降りろ」と能力を使うだけで相手は死にます。かなり強い能力ですね。エターナルフォースブリザードかな?

ふみちゃんに掛けた能力はそんなに大した内容ではないので問題とはならなかったのですが、能力の存在を知る母に見つかり二度と能力を使わないようにと厳命されます。母の一族には能力を持った者が時折生まれるそうです。さらっと凄い設定。

 言いつけを守っていた「ぼく」ですが、ある日学校で事件が起きます。その事件とは医学部の学生による小学校のうさぎの殺害。うさぎの面倒を真面目に見ていたふみちゃんは殺害されたうさぎたちをもろに目撃しショックのため口がきけなくなってしまいます。「ぼく」は常々ふみちゃんを尊敬していました。それはふみちゃんは知識欲があり、しかしそれをひけらかすことはせず、寛容で周りの子達よりも少し大人びていたためです。そのふみちゃんか理不尽な目に遭い、うさぎ達の命も失われたにも関わらず、犯人である医学生、市川雄太はうさぎという器物損壊として執行猶予となり弁護士に守られて何ら罰を受けているようには見えません。そんな市川雄太が小学校に謝罪に来るという話を知った「ぼく」は咄嗟に担任に能力を使い、クラスの代表として市川雄太の謝罪を受け入れることにしました。「ぼく」は復讐のため謝罪の場で市川雄太を裁くために能力を使うことを決めたのです。

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ジョジョの奇妙な冒険第6部よりジョンガリ・A。「ぼく」の心の支えを奪った奴への復讐が始まる!

 誰かがどんなに止めようと市川雄太を探し出し能力を使うという覚悟を悟った「ぼく」の母親はせめて能力の使い方を知る親族、秋先生の元に「ぼく」を通わせて能力の正しい使い方を学び、そしてできれば思い直してほしいと望むのでした。

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ジョジョの奇妙な冒険第6部よりエルメェス。覚悟は決まっている。

 さて、秋先生は能力の使い方、倫理、様々なことを優しく教え、また、犯人に復讐を考えている「ぼく」の話を軽んじることなく聞いてくれました。その秋先生との対話を通して「ぼく」が市川雄太にどんな復讐を遂げるのか?それとも許すのか?「ぼく」の選択が見どころです。

また、「ぼく」を突き動かしているものが恋心などではなく、ふみちゃんへの尊敬と理不尽への抗いである点についても掘り下げられており、自らの行動は本当にふみちゃんのためなのか?単なる自己満足なのかと悩む主人公の姿には大いなる能力を得た人間の苦悩が滲み出ています。この悩みに一種の答えをくれる秋先生と「ぼく」の問答は恐らくこの小説の一番の名シーンであると思われます。

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映画「スパイダーマン」より。大いなる力には大いなる責任が伴う。

 ちなみにタイトルのメジャースプーンは、尊敬するふみちゃんからもらったもので、うさぎがあしらわれています。メジャースプーンは料理に使う大さじ、小さじとかのあれですね。ふみちゃんと「ぼく」とで分け合っていたのですが、当然事件の後でうさぎなんて見ることもできないふみちゃんにいつかメジャースプーンを返すことができるのか?というストーリー上の展開もありますが、小説の内容や装丁から「ぼく」が市川雄太の罪を量るメタファーにも捉えられます。能力の制限の中で市川雄太が一番反省し後悔することは何か?ふみちゃんの心にダメージを与えたこいつにどこまでやっていいものかと考え続ける一連のシーンはまるで能力バトルでのキャラクターの内心のようですね。私も自らに能力が目覚めた際にはその活用法を模索するとともにできれば秋先生の様な先達のもとで修行したいです。今回、本作を久々に思い出して再読したところ、「これって能力バトルじゃん」と思い至ったので紹介してみました。

 さて最後に。辻村深月さんは大好きな作家さんです。しかし少しだけこれはちょっとどうなの?と思う点があります。それは詳細を書くと各作品のネタバレになってしまいますが、話の最後にある特定のギミックを持ってきがちなところですね。一応本作にはそのギミックが無いため一切気にする必要はないのですが、すでに何作品が辻村深月作品を読んで、「おや?」っとなっている方もいるかもしれません。辻村深月さんの著作は多数のキャラクターが様々な作品にまたがって登場しているため、繋がりを強調する意図もあるのかもしれません。にしてももう少しだけさり気なくしたり、他のやり方にできないかなと思わなくもないです。うるせぇ面白ぇなら良いんだよという蛮族みたいな自分もいますが。まぁともかく本作にはその要素はないです。ただ、「ぼく」、秋先生、ふみちゃんは他の著作にも出てきているので本作が面白ければ是非他作品も手にとって見てください。

 ちなみに他の著作の内、私のおすすめは凍りのくじらです。

こっちは恒例のギミックが入っていますが意識高い系やストーカーの描写、そして藤子・F・不二雄要素が良いです。本作同様おしゃれな装丁もおすすめです。

 日々のストレスで最近大いなる力に目覚めそうな方、ご子息ご息女が何やら怪しい力に目覚めている気がする方、よろしければ是非ぼくのメジャースプーンを読んで初めての能力を正しいことに用いていってください。

 

或る夏の日の不穏な恋愛〜シギサワカヤさんのヴァーチャル・レッド

 今月私が力を入れてやっていたことは、物理的にも精神的にもアクリルを切っては接着し、ちょっとした器材を作るといった作業でした。

アクリルカッター。こういうので何度もこそぎ取るように切る。

 毎晩のように「キィ〜」という不快な音を漂わせながら幼なじみの変人と仲の良かった同期(退職済)と作業通話したり、ラインしたりしつつ器材を作り、いい加減友人達が病むかアクリルの切り過ぎで私が病んでバットマンヴィラン、「アクリルマン」として銀幕デビューを果たすか?といったところで昨日、そして本日不慮の事故でアクリルで作った器材が全懐し上司に報告したところこの仕事自体が無くなりました。ヤッタネ!

 今回はそんなクーラーも無い部屋でアクリルを切りつつ汗ダラダラで働きながら思い出した作品、シギサワカヤさんの「ヴァーチャル・レッド」を紹介します。

 

シギサワカヤさんのヴァーチャル・レッド(全3巻)

 シギサワカヤさんといえば、よく異性に振り回される男女を描き、恋愛漫画を中心に活躍されている漫画家さんです。長らくコミック誌「楽園」の表紙をされているので絵を見たことある方も多いのではないでしょうか?

「楽園」実物はかなり大きかった気がする。

コミカルな雰囲気の中にガチめな恋愛描写をぶっ込んでくる作風をもってして田舎のイガグリ頭だった私に「大人、すげぇなぁ。オレもいつかこんな恋愛してぇなぁ。」とずっと刷り込んでくれた親鳥のような方です。

 世界に様々な恋愛漫画があれどシギサワカヤさんの作品は「こんな恋愛してぇ」という気持ちを噴出させる能力がトップクラスです。恋ダンスしてる場合じゃねぇ。

「こんな恋愛してぇ」の代表?

 シギサワカヤさんの作品はたとえば、不思議系ながらも聡いところのある先輩(彼氏持ち)との恋愛を描いた「ファムファタル

ファムファタル(全3巻)

 敏腕デザイナーの主人公のもとに一癖も二癖もある双子の女が迷い込んでくる「お前は俺を殺す気か」

お前は俺を殺す気か(全5巻)

 幸せな結婚を控えつつも他部署のイケメン社員に心を惹かれ続ける女などの話を含んだ短編集、「箱舟の行方」

箱舟の行方(全2巻)

 などなど恋愛の「こんな恋愛してぇなぁ」という主成分に「恋愛ってこういうの面倒くせぇよなぁ」というスパイスが程よく混ざり、素敵なフレーバーとなっています。

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誰にも言えないより、恋愛のクソみたいな部分。これは殴っていい。
 個人的に好きなのは箱舟の行方に収録されている1ページ漫画「ウィーク・エンダー」です。1ページ漫画を引用するのはどうかと思いますので概要を説明すると、同棲相手の眼鏡のネジを調節してあげるいじらしい女性の話ですね。百人一首で言うと38首目の右近の歌みたいな雰囲気です。

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右近「忘らるる身をば思わず誓ひてしひとの命の惜しくもあるかな」訳「彼に忘れられる私のことはどうでもいいのです。それよりも神に誓って私を愛すると誓った彼に神罰が下ることが惜しまれてなりません。」

 右近のように強い女性はかっこいいですがシギサワカヤさんの作品にはこういったかっこいい女性が沢山出てきます。

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九月病より海老沢さん。


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さよならさよならまた明日より万喜さん。

なんか読み返すとデコ出てる女性が多い気もしてきた。

そんなかっこいい女性やかわいい女性が多数の「こんな恋愛してみてぇ」となるようなシギサワカヤさんの作品の中で「こんな恋愛したい?あれ?わからん?」となるのが冒頭で紹介した「ヴァーチャル・レッド」なんです。あと夏にピッタリ!いろんな意味で!

 主人公の藤井は優秀なプログラマーとして夕方と早朝どっちだっけ?となるような多忙な生活を送っています。
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仮眠明けの主人公。朝であることに気づいてもいない。

ある夏の日、怪しい後輩から不穏な噂を聞きます。曰く、「ストレス解消したいなら、誰とでもやらせてくれる女がいますよ?」と。

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なんのけなしに、そして、吸い込まれるように噂の家にたどり着いてしまった藤井は、家の中で女と出会いそして強く惹かれるようになります。

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怪しげな美女。

 家から出るとその姿も曖昧になってしまう家の不思議さと、彼女を求め、噂が本当ならば誰にも彼女のもとに通ってほしくないと藤井は社会人なら誰しも憧れるような休みのとり方をし彼女と生活をともにするようになる、といったお話です。
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権利はあるけど行使する度胸は無い奴。

 藤井と彼女との間に何があったかを知る噂の出どころの怪しげな後輩の謎や、f:id:sannzannsannzann:20220831223055j:image

序盤から出てくる後輩の黒幕感。

明らかにいつか失われてしまいそうな関係(と肉体)に溺れる藤井。そして時間が止まったかのような家の謎。エロさと怖さでやや脳がバグりますが、両方とも刺激という点では同じなので食い合わせは非常に良いです。エロさと食事で脳をバグらせてくる不倫食堂とかもこの系統ですね。

こんな出張は多分ない。無いはず。な不倫食堂。

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ヴァーチャル・レッド1巻より。刻んだトマトをめんつゆにつけてうどんを食べるシーン。食い合わせが良さそう。こんなのほほんとしたシーンも、唐突に回収されるので気が抜けないです。

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自分しか知らないプライベートなことを急に耳打ちされたら怖くて泣いちゃう。

 最近、多忙で朝も夜も無いような方、恋愛とホラーをいい感じに混ぜた作品が好きな方、普通の恋愛は飽きたとか言っちゃう方、是非シギサワカヤさんのヴァーチャル・レッドを読んでみてはいかがでしょうか?夏にピッタリの作品です。

堂々とやりたい権力闘争〜秋目人さんの騙王シリーズ

 それにしても金が欲しい。皆様こんにちは。
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賭博破戒録カイジより。

お金欲しいですか?私は欲しくて仕方がないです。私の亡くなったお祖父ちゃんも「金は寂しがり屋なんじゃ!集めれば集めるほど寂しくてもっと増えるんじゃ!」と常々言っていました。しかし、プロレタリアートの私が少しでも多くのお金を得るためには出世しなければなりません。辛い。

 出世は諦めかけている枯れた私ですが、せめて幼い息子には熾烈な競争社会で巧く立ち回ってもらいたいところです。

 「僕も一国一城の主になりたいよぉ〜。」というお子様には、「よいこの君主論」あたりをおすすめしてもいいのですが、君主論自体が「愛されるより、恐れられる方が良い。」とのたまい、目的のためには手段を選ばない政治家がマキャベリストと批判されたりもしています。

こんなお子様おらんやろ、となるよいこの君主論。覇道を唱えたいお子様にはおすすめの一冊。

 どうせなら(表向きだけでも)王道を歩ませて愛される子に育ててあげたいのが親心。そこで今回は(手段は兎も角表向きは)正々堂々と王位を目指す物語、秋目人さんの「騙王」シリーズをおすすめさせていただきます。

 

「騙王」シリーズ。既刊2冊。2冊目で一気にラノベ感が増した表紙になりましたが元々ラノベ寄りです。

 

 騙王シリーズは主人公のフィッラルドが父の跡を継いで王位につくために奮闘する小説です。というのもフィッツラルドは庶子であり、正当な王位継承権が無く、ついでに正当な王位継承権を持ちサプライズで毒矢をプレゼントしたりする弟思いのイケメンの兄がいます。ついでに周辺国との関係は基本的には戦争か停戦かといった具合のため、イケメンなれど無能な兄を蹴落とし、王位について国を安定させたいという愛国心溢れる主人公が魅力的です。

 こういった群雄割拠然とした国家間や王族間の争いを描く作品でありがちなのは、主人公の奇策で周辺国をバッタバッタと薙ぎ倒し諸国統一めでたしめでたしというスタートからゴールまで全力疾走みたいな内容ですが本作は少し趣が異なります。本作もプロローグが終わると自衛戦争のシーンから始まっていますが、あくまでも政争および生存の手段としての戦争なんですね。それを理解しているので、戦争に重きを置いている訳ではなく、全ての事柄に優先順位をつけた上で、自分の得意分野、不得意分野、自分が必要な仕事、部下に任せても問題のない仕事を分類して奇麗に行っている様は企業戦士としてちょっと憧れます。


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島耕作?より。やっぱり優秀な癖のある部下も御してこその企業戦士。企業戦士ってこういうのじゃない気はする。

 それなりの地位に就くに当たって必要となってくる要素は色々とあると思いますが、金、人脈、権威、後ろ盾、世間の好感度などとおおよそ私のような凡人でも考えつくような要素を一つ一つ丁寧に獲得していく様は丁寧にプレイする信長の野望みがあっていいですね。f:id:sannzannsannzann:20220831201857j:image

信長の野望 覇王伝より。みんな居なくなった。

 そしてある意味メインが身内との戦いである第一作「騙王」から、外敵、周辺国との戦いとなっていく第二作「謀王」も見所ですね。主人公のフィッツラルドは優秀ですが、あくまでも一国の中での優秀さであり周辺国には当たり前のように同等クラスの優秀な王族、軍人などが跋扈しています。その外敵とどう渡り合っていくのか、中々面白いところですね。

 個人的に好きな点は戦勝の見返りに主人公の兄の下に許嫁(人質)として送られてきた隣国の姫リズと主人公のやり取りです。自国の使命を自覚するリズとリズをどうにか利用しようとする主人公。そこにロマンスの欠片のような要素も見出だせなくはないですがそれ以上に、状況が変わった際にすぐさま判断し行動を起こす主人公と行動の遅い兄の対比が際立ち、明確なブレインもいないのに自ら未来を予測し動ける主人公の魅力が光ります。

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蒼天航路より荀彧。欲しいよねブレイン。

 そして凄まじく個人的な話なんですが、「限られた小遣い」「加齢による集中力のなさ」「仕事や家庭による時間の制限」を考えると、昔はよくやっていた漫画の一気読みや購入や小説でもシリーズの一気読みが厳しくなってきています。そんな中、いわゆる「単巻ラノベ」の株価が東証私部でストップ高になっています。電車で3回出勤するくらいで一冊読み終わりますし、「Tarzan」や日経新聞、意識高めの新書や司馬遼太郎を読んているリーマンに単巻ラノベで差をつけてみるのはどうでしょうか?

何度読んでいてもたまに読み返したくなるのも単巻ラノベの特徴。

 

そろそろ独り立ちの頃かな?と考えている方、大きめの野望を宿していてそろそろ打って出ようと思っている方、よければ出勤途中にでも騙王シリーズを読んでみてはどうでしょうか?

ファンタジー小説を読みたい!〜高里椎奈さんのフェンネル大陸シリーズ

 ファイアーエムブレムシリーズやタクティクスオウガシリーズなどのユニットを動かして戦うシミュレーションゲームの面白い所は、育てたユニットで巧く戦闘に勝つ楽しさと、自らの行動が物語世界の歴史に影響を与える点だと思っています。そういう意味では最近どちらかというとキャラクターに焦点を当てている様に感じるファイアーエムブレムシリーズよりも選択肢によって分岐のあるタクティクスオウガシリーズの方がやや好みです。まぁどちらも毎回のように買っているんですが。タクティクスオウガリボーンが2022年11月に発売されるそうで今から楽しみです。f:id:sannzannsannzann:20220821163830j:image

Wii Uタクティクスオウガ、公式サイトより。


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ファイアーエムブレム風花雪月より、最近のファイアーエムブレムはあざとい。

 さて、そんな私が好きなジャンルはタクティクスオウガの様にファンタジー系の戦記物になります。具体例としては田中芳樹さんのアルスラーン戦記や、はたまたマヴァール年代記あたりになります。しかし銀英伝をはじめとした田中芳樹作品を読んだことのある方は『皆殺しの田中』によって推していたキャラクターが無惨に散っていく様になんとも言えない寂寥感を覚えたことがあるのではないでしょうか?

「皆殺しの田中」代表作銀河英雄伝説、あなたの推しは死にましたか?私の推しは見事に散りました。

 田中御大は近頃長編のファンタジー戦記物を書かれてませんし、推しが死ぬ辛さは味わいたくない。そしてそろそろ、「ギルド、スキル、チート、レベル」あたりの言葉が苦痛になり、古きよきファンタジー戦記物を読みたい、という私をはじめとした感性がおじさん寄りまたは、主人公が大冒険する話を読みたいという小学校高学年くらいの方に向けて今回は、高里椎奈さんのフェンネル大陸シリーズをおすすめしたいと思います。

フェンネル大陸偽王伝と真勇伝。講談社ノベルス版はミギーさんの挿絵が入っています。

 フェンネル大陸シリーズはフェンネル大陸偽王伝とフェンネル大陸真勇伝からなる全18冊+短編集1冊のファンタジー戦記物です。ファンタジーとしていますが、ファンタジー要素は控えめで基本的には騎士の時代といった雰囲気です。

 大まかなあらすじとしてはストライフ王国の王女であり、13歳のフェンベルク・ストライフ(フェン)が国を追われ、新たな大陸で自分の生き方を模索する話です。王女というとお姫様の様な印象を受けますが、実際は母国の一個方面軍を任された気の強い軍人です。王女から一転、奴隷として売られたフェンは絶望しつつも、自らの母国ストライフと異なる様々な統治制度、軍政を持つ国を巡り見識を広めていきます。折しも安定していた国々はフェンが追放されてきたタイミングできな臭くなっていき徐々に国同士の動乱に巻き込まれていく、といったところです。

 ジュブナイルとして見るならば、単純に様々な動乱に巻き込まれるフェンの冒険活劇を楽しむとともに、フェンが知り合った騎士の見習いロカ、森に住まう戦闘民族イリスの優秀な若者アシュレイの3人が動乱に巻き込まれて迷い、成長する話として楽しむのが第一ですね。この3人は三者三様に悩みを抱えており、フェンは生きる意味見失った自らの先行き、ロカは優秀な身内への憧れとコンプレックス、アシュレイは先の見えない民族の中で自らが天才として生まれた意味に悩んでいます。そして各々が動乱のさなかに自らと向き合い、自分の感情に折り合いをつけていくのです。読者によってこの3名の誰に感情移入するか異なるのではないかと思います。

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講談社ノベルス版「騎士の系譜」よりロカとフェン。

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講談社ノベルス版「虚空の王者」よりアシュレイ。

 そしてジュブナイルではなく、戦記物としての魅力はシミュレーションゲームらしさです。この小説はジュブナイル小説であると同時に、シミュレーションゲームの様な雰囲気がただよっています。それには2つ理由があります。1つはシミュレーションゲームをプレイされた方ならなんとなく同意されると思うのですが、味方が進軍していく際に敵国の事情も会話劇として挿入されているかと思います。

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バハムートラグーンより敵勢力グランベロス帝国のワンシーン。ちょっと例として適切ではない気もする。

本作でも主人公フェンの周囲の人間を描くとともに、戦乱に巻き込まれる複数の国々の内部事情、人物が丁寧に描写され、各国の思惑、キャラクターにも十分スポットライトが当てられています。評議会を持つ商業国、騎士の国、鎖国している閉鎖的な雪国、傭兵の国、大規模な宗教国など様々な国と制度、その内部のキャラクターを知るに連れて、思わず応援してしまう「推し勢力」を見つけることができると思います。

 もう1つはその戦闘シーンの描き方です。軍記物として国同士の争いが生起するのですが、ある程度主人公に焦点が当てられている性質上、大軍勢同士の衝突ではなく主人公が参加している局所的な戦闘にフォーカスされています。つまりは、シミュレーションゲームにおける主人公陣営の戦闘っぽさが凄いんです。戦乱が始まる前は違法な商船の摘発や街角での数人がかりの戦闘、戦乱が始まってからは局所戦のさらに主人公が参加している範囲の戦闘と、ユニットを動かすシミュレーションゲームならばおそらくこんなステージで、敵将の名乗り口上と能力はこんな感じでと思わず想像してしまう戦闘描写が魅力的です。


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ゲームボーイアドバンスタクティクスオウガ外伝より。こういう戦闘前の言い合いみたいなやつかなり好きです。

 そして各国、各人の思惑から裏切りや協力が生起する度に、「あーこういう能力のユニットが加わるやつね」と思わずにはいられません。これは私が単なるゲーム脳であるためかもしれませんが。私が特に好きなキャラクターは主人公から見て敵勢力?の武将ゴードンです。

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講談社ノベルス版「光と闇の双翼」よりゴードン(左)

棍棒を振り回す巨漢でカコア(恐らくココア)が好きな男です。作中では敵として登場しますが、成り行きと恩義で一時はフェンに味方します。彼の魅力は粗野な態度にも関わらず情に篤く自らの思う通りシンプルに生きようとしている点です。こういった魅力的なキャラクターが織りなす戦闘がシミュレーションゲームにのめり込んだ方を始めとして戦記物が好きな方におすすめです。

 最近ファンタジー小説を読んでいないという方、国の動乱を描いた戦記物が読みたい方、是非フェンネル大陸シリーズを手にとって見てはいかがでしょうか?広い大陸の多くの国々の中からあなたの推しキャラと推し勢力が見つかるはずです。