読んだら寝る

好きな作家、本、マンガについて紹介

巡るのだ。四国を巡るのだ〜坂東眞砂子先生の「死国」

 先日出張で四国に行きました。近所にもお遍路の寺があったり、こんぴらさんがあったりしたので、せっかくだからと観光してきました。定年したらのんびり旅館に泊まりつつお遍路したい…と思うのは日本人の性じゃないかな思います。

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金刀比羅宮、奥院、めっちゃ登る。

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香川ということで、お遍路の方も食べていたある店のうどん

 さて、四国に来たならば御当地作家の本を読まねばならぬだろうとこの度、初めて坂東眞砂子先生の著作を読みました。趣味が怪奇に寄ってる妻が坂東眞砂子先生の著作を推していても「あ〜バンマサね。そのうちね。」と知りもしないのに知ってる感を醸し出してスルーしていた訳ですが、せっかく四国に上陸したならば読まざるを得ません。というわけで私の初「坂東眞砂子先生」は「死国」で決まりです。

 

1999年に映画化もされた有名作品

 主人公の明神比奈子は、地元の高知県は矢狗村(やくむら、一応言っときますと実在しない村)から親の仕事の都合で関東に出て、以来東京でそこそこ有名なイラストレーター「HINA」として活躍していました。そんな中、親が矢狗村に残してきた家の貸借人が出ていくことになり、家に新たな貸借人を呼ぶか、売り払うか処分するために夏の間帰省することになります。

 折良く?「『HINA』は俺がプロデュースしたんだよ。」みたいに調子に乗ってる広告代理店勤務の彼氏の浮気が発覚、「地元で一度仕事を休んでダラダラしよう。」と相成った訳です。

 比奈子が帰省し、かつての友人たちとの再会で思い出すのは、中学生までいつも一緒にいた友人の「莎代里(さより)」のことでした。ただ、今回の帰省の中で、互いに言葉は少ないながらも分かり合っていたと感じていた莎代里は中学3年生の頃に亡くなったことを知ります。

 さて、これだけだと最近流行りの「東京&田舎ってやつは最高だけど最低だよなぁ〜」みたいな本となんら変わりありませんが、タイトルからもわかる通り、それだけではありません。

 

 

鳥トマト先生作、東京と田舎の色んな話。

よくSNSで盛り上がっているイメージ。

 莎代里の家は代々続く口寄せの家系で、莎代里の母照子はかつては莎代里を依代にして死者を口寄せして、村人の悩みを解決していました。その照子は「お遍路を逆向きに回る逆打ちを莎代里の享年の回数だけ行っているので、莎代里はそろそろ帰ってくる。」という中々あれなことをおっしゃってます。ちなみに1周約1,200kmで1日行けても30km程度と、大体45〜60日かかるそうです。ば、バイタリティ。当然、みんなさらっとスルーするのですが、日奈子が村で過ごしたり、初恋の男性とデートしたりするとどこからか気配が感じるようになったりするようになったり、急に天候が崩れたり、かつてクラスのマドンナ的存在で村のスーパーに嫁いだ同級生が不倫して駆け落ちしたりと段々不穏な要素が矢狗村に漂ってきます。

 そんな不穏さが垣間見える日奈子達の矢狗村での生活の合間には、村の会合でお遍路をする人間を決める描写が挟まれ、なぜ村からお遍路を行う人間を選抜しなければならないのかという謎が並行して描かれています。お遍路に選ばれた男の内心描写から、老いて体力が落ちる中、お遍路から返ってこれなかった人々の末路も克明に描かれ、矢狗村の不穏さに加えて、読者の「お遍路って、四国ってなんなんだよ!?」という疑問と期待をいい感じに高めつつクライマックスまで気持ちを保たせてくれます。

 

 また、人物の描写は独特です。「田舎あるある」みたいな人物も出てくるには出てくるのですが、そういった人物が全く目立たないくらい一癖も二癖もある濃すぎる人間達がストーリーを盛り上げるために登場しては凄まじい勢いで踊り狂います。具体例を挙げますとややネタバレになるかもしれませんが、「発砲までが早すぎる警官」植物状態の患者はすべて自分の赤ん坊だと思っている看護師」「夫が生前の頃にしていた不倫の思い出に浸る老婆」「死してなお仲間にメッセージを残さんとする巡礼者」「いい歳したおっさんを急に鎖場とかある危険な山に登山させる存在」「おっさんが滑落したから今度はちゃんと鎖場を迂回させようとする存在」「撃たれても走って山を登ることのできる巡礼者」「最短で現地に向かうために看護師を利用して▲▲しちゃう人」などなど「おら、こんな村嫌だぁ」と言いたくなるような人物が盛り沢山です。

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作中に実際に出てくる鎖場のある石鎚山

落下事故もあり迂回路があるなら迂回すべき。

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そんなにキツくはないけど勾配がヤバい。

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素人は鎖場を登らないようにね!

迂回路を行こう!

そのうえ、大して重要そうに感じていなかったモブキャラ中のモブキャラまでが、「そんな場面で出てくるのかよ!」という活躍を魅せることもあり、気を抜けません。

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ダイの大冒険より「チウ」

小説だからこそ1行くらいしか言及がなかったキャラが目立つとゾワッとする。

 「田舎あるあるの人」というでっかい偏見の物差しでは測り切れない強烈な人物に囲まれた四国の地がド派手なラストに向かって突き進むハリウッド映画の様な躍動感は、ホラー小説や怪奇小説というよりエンタメ小説として楽しむことができ、こんな楽しい小説が1996年に書かれていたなんて!という新鮮さを味えること請負です。

 

 それにしても「村は死によって包囲されている。」という描写が印象的な小野不由美さんの「屍鬼や今回ご紹介した坂東眞砂子さんの「死国」や「狗神」あたりを読んでいると、「地元だからどんなふうに描いてもいいや!」みたいな勢いを感じます。

 

小野不由美先生の「屍鬼」、先生の地元、大分っぽい村が大変なことになる。

 ただ、まずもって、東京者の目線から描かれている「死国」の田舎像は、たとえば近年見かける「少年のアビス」の様なネガティブな田舎像ではなく、30年も前の小説だからか、不思議とめちゃくちゃポジティブに感じます。

 

峰浪りょう先生の「少年のアビス」

田舎、介護、貧困、閉塞感、心中、イジメなど凄まじい田舎の詰め合わせ。こちらの作品もド派手で、滅茶苦茶面白い。

インタビュー「けっこう自分の経験が入っています。」という恐ろしいことを語られています。

 なんやかんや30年前から「田舎と都会」の分断はあったんだなというと感慨もひとしおですが、当時描かれたド田舎は、「毎年やる同窓会や同窓会後のチークダンス」とか羨ましいかというと羨ましくないですが、今では全く考えられない陽の要素に満ち溢れており、この大SNS時代という陰の時代に無い爽やかさが田舎に見て取れて新鮮です。平成初期、令和と比べると圧倒的『陽』の時代。

 ド派手な怪奇小説が読みたい方、そもそも「死国」や田舎の出身の方に読んでいただきたい最高のエンタメ小説です。

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ずっと「堀さんと宮村くん」に憧れている。

 一番縁が無いなと思う世界が有りまして、スクールカーストの中心ですね。もう卒業して15年以上経ってるのも一応理由としてありますが。

 趣味は読書とラジオドラマ視聴で、部活でラグビーをやってて声の大きい私は、大体クラスのすみっコのグループでうるさい声を上げて笑ってました。ちょっとうるさいすみっコぐらしです。いや、高校とか勉強まみれの割には楽しかったんですが、今思うとイジメとか色々あった気もしますし、まぁ良くも悪くも普通の高校でした。

 

 一応こんな私にもモテた時期がありまして、一度ラグビーの練習後帰宅中に看護科の女子から「ラグビー部の中でかっこいいと思ってました!よかったら今度遊びに行きませんか?写メとか送ってください!」ってメールが来て、ちょっと嬉しくなった私は、一緒に駅に帰っていた同じようにモテなさそうな3年の先輩に相談しました。同志がモテたのが嬉しくなった先輩は私が一番かっこよくなる方向を考えて斜め45度上くらいの角度で写真を撮ってくれました。即、送信しました。

 結果、あまりのキメ顔がクラスでドッキリをしようとした友人たちの倫理に訴えて「ドッキリとかやっちゃいけなかったよね…。」とドッキリ自体とネタバレが無くなりました。10年後友人に「たけひこキメ顔事件」として犯人の名前は伏せられて経緯を伝えられ、モテて無かったんだと悲しい気持ちを追体験しました。というか被害者は私なんだから犯人教えろやという気持ちが無くはないです。なんでキメ顔見せられた側が被害者ぶってるんだよ。

 

 さて、こんな感じなので高校の恋愛には一切縁がなかったのですが、反動として恋愛漫画・小説は大好きでした。以前紹介した「君と僕」羽海野チカさんの「ハチミツとクローバー」が特に好きでしたが、「大学に行ったらこんな恋愛できるんだー」と思っていたのがハチクロだとしたら「高校はこんな日常が送れるはず!」と憧れながら読んでいたのがHEROさんの「堀さんと宮村くん」でした。

 

(本編10巻完結済み、おまけ15巻完結済み)

ちなみに作画萩原ダイスケさんの漫画も17冊出ています。

 堀さんと宮村くんは作者のHEROさんが個人サイト「読解アヘン」で連載されていた青春漫画です。

 あらすじを言いますとめっちゃギャル趣味の堀さんがひょんなことからクラスの陰キャ宮村くんが、オフの時はピアスをバチバチに着けて、体の結構な部分にタトゥー彫ってるイケメンであることに気づき、次第に仲良くなっていくという内容です。

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わかりやすいあらすじ。

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メインキャラ達。

 今でこそたまに見かけそうな設定ですが、この作品は結構な先駆者だと思っています。逆パターンは「おもしれー女」って感じでよくありそうですが。

 序盤は基本堀さん目線なので、堀さん目線で宮村君の魅力的な部分がどんどん描かれて居て「無からこんなセクシーな男が練成されてたまるかよ!等価交換はどうした!」と思っていたんですが、堀さんは堀さんで「オタクに優しくは無いけど家では家庭的なギャル」なのでこのあたりでエネルギーが保存されている筈です。

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「クラスのアイツの本当の姿を俺しか知らない」って良いですよね…。

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「私だけが良さを知っている宮村くん」はついでに暴力も強いぞ!守ってほしい。

 さて、この2人が付き合っていくまでの過程を描くって言うと少し語弊があります、付き合うまでの時間は(巻数的には)結構短いので。あとイジメや恋愛・受験の悩みなんてのも結構描かれていますが、それもメインではありません。何がメインかと言うと「高校生たちの日常」です。

 実際に高校生の頃は色んな悩みがあったと思いますが、別にその悩みが人生のメインじゃないでしょうし、悩んでも落ち込んでも腹は減るし眠たくなるわけです。部活に打ち込んでいても、別にそれは勉強を一切しないわけじゃないし、他に日常が全く無いわけでも無いじゃないですか。

 この作品は、まさに日々の高校生を描いてるんですよ。平成中期〜後期を結構な解像度で!喩えるならそう、日本人にとって欠かせない白米の高級なやつをおにぎりにした感じです。日常≒米がメイン、恋愛その他≒おかずはサブといった感じですね、喩えがデブであれですが。

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全般的に楽しそうな日常が続く

 日常がメインで描かれるって、結構難しいと思うんですよ。テンプレート的なキャラ設定だけではなくて、実際にこの人物だったらなんて話すんだろうって言うのはもはやシミュレーションの領域では…とか思ってしまいます。テンプレ的な設定、料理が殺人的に下手とかも有るにはありますが別にそれがメインでは無いですし。

 そういう意味では本作は、本編10冊、おまけ15冊ともはやメインストーリーよりおまけが充実しているという。まぁ10冊ある本編も余裕で日常がメインなんですが。そんなおまけは、今後は書籍化されないそうですが、まだまだサイトで不定期で連載が続いているという非常に有り難い、これがあるだけで最低限度の文化的な生活を送れるという状態ですが、一方でいつか作者様がお亡くなりになったらサイトはどうなるんだと気が気ではありません。一生書籍化してくれスクウェア・エニックス…。

 高校時代、こんな日常を多分ある程度誰もが送って居たと思うんですよね。色々悩んでいたこともありましたが、総じて言うと楽しかったですし。まぁ人によって恋愛の有無とか友人の数とか程度の差はあると思いますが。そんな中でも、「ここまで素敵な3年間送れたら最高」を25冊分堪能できるのは凄いです。ちなみに、営業妨害みたいですが、サイトで全て読めますので、是非ブログなんて根暗な媒体読んでないで本編を読みましょう。

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地味に大好きなシーン。

ホラー小説読んで部屋の気配がなんとなく怖くなって友人を家に呼ぶシーン。

友人が居なかった宮村くんに友人ができていることも素敵なんですが「夜中に気軽に呼んでも大丈夫っていう人間関係を構築できていること」と「こうやって遊ぶのが日常になっていること」2つが羨ましかった。

 本作で好きなキャラと言うと「箱推し」になってくるのですが、特に好きなキャラを言いますと、男子だと井浦くん、女子だと吉川さんですね。

 井浦くんはクラスでお調子者でうるさいタイプのガヤガヤした男で、家では寡黙で妹にうざがられている割と平均的な男の子です。

 この家と学校でキャラが違うの、考えてみれば全然当たり前に居ると思うのですが、私自身が割とどこでもタイプが同じ大味な人間なのでちょっとアハ体験を感じました。普段は脳天気な人間でも悩みがあるなんて言うのも、自分には見せない面を持ち合わせているというのも当たり前なんですが、意外とそこまで想像が付かない様な気がするのは…、書いていて自信無くなって来ましたが、意外とそこまで思い当たらないですよね?ちなみにうるさいところはかなり共感できますが、持ち前の明るさからすぐに彼女ができてすぐに振られているというあたりから、私の同志ではないです。この緑髪、青春を謳歌しております。

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妹にもギャップで驚かれている井浦君

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大まかなキャラを教えてくれる井浦くん

作品紹介にもうってつけ。

 女子で素敵だと思っているのは先程も述べた吉川さんですね。理由は可愛いからです。

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吉川さん。これは正ヒロインですわ。

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こんな可愛い没案があるかよ。

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野生のイケメン(後の準レギュラー)に告白される吉川さん。

 ギャルな堀さんの友人で、本人もギャルな吉川さんは、なんかナチュラルに萌え袖だし、スクールカースト上位に居るのにゆるーい雰囲気で気さくなので、多分同じクラスに居て学園祭の準備とか一緒にやると「あれ、吉川さんって意外と話しやすい?」って勘違いして絶対告白してしまうけど、「全然まだ良く知らないし」って真っ当な理由で当たり前に振られて気まずくなってしまうし、きっと「堀さんあたりとキモいのに告白されたーw」みたいな風に話して盛り上がらない優しいタイプなのが良いんですよ。

 あと吉川さんみたいな人は、きっとどこのクラスにもスクールカースト上位グループに居て、無意識に「高嶺の花」と恋することすらせずフレームアウトしていたと思う。そんな可愛い子クラスに居た気がする。言葉も交わしてなさそうだけど。

 ある意味超普通な女子でそれ故に滅茶苦茶可愛いのが吉川さんです。本人も堀さんや他のキャラと比べて、自認・自称ともに平凡な人間だと思っているあたりも好きです。それは強みだよ吉川さん!しかし、残念なことに作中では紫髪の石川くんと延々とイチャイチャしてます。私も紫色の髪色だったらワンチャンあったんでしょうか。堀さんと宮村くんと違って、こっちは「付き合う」とか「彼氏彼女」とかじゃなくて曖昧な名前のついていないような関係なのもいいですね。強いて言うならば「友情」なんですが。

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なんか無限にイチャイチャしてる。

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家に行ってるのに付き合ってないの何なんですか?

 魅力的なキャラについて好き放題語ったので締めますと、神の目線で高校生の内面まで眺めつつ、一員となって青春を追体験できる最高の青春漫画です。マトリックスで機械側に裏切って仮想空間の中で理想の生活しようとしてた奴居たじゃないですか、あいつが見ようとしていた夢が本作品です。

 自分の青春は受験と深夜ラジオだった方、「彼女?中学のときは居たんだけどね。」といきがった経験のある方に特にオススメです。

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確率の先にあるもの〜宮内悠介さんの「盤上の夜」

 SFはあらゆるジャンルと相性が良いと思ってまして、それは我々の日々の生活も進展していく技術に支えられているが故です。

 特にサイエンス・フィクションと言うだけあってフィクションとの相性は抜群です。架空の世界には架空の科学があって然るべきだからでしょうか。

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道満晴明ビバリウムで朝食を」より

 そんな無限に広がる空想の世界は大好物なのですが、敢えて有限の世界を細かくクローズアップしていく感覚が私は好きです。

 昔読んだ論文で印象に残っているものがあるのですが、石を破砕する際のシュミレーションに関する研究がありまして、その計算は、破砕すればするほど要素の数が増えていくので有限である筈の石が無限の様に細かくに分割されていき、ついでに計算負荷が何だかとんでもないことになっていくという内容でした。石を破砕するミルという区切られた有限の世界が無限に広がっていく様はなんとなくワクワクしたものです。

 

こういう観念的なの。

 

 そういう意味では有限な筈なのに無限に広がっている様に感じられるものといえばボードゲームです。

 今回紹介するのは、囲碁や将棋に麻雀など、ボードゲームの中にある宇宙の様な世界を描いた連作短編、宮内悠介さんの「盤上の夜」です。

 

宮内悠介さんの「盤上の夜」

 

 まず表題作の「盤上の夜」ですが、少女が様々な苦難を乗り越え、日本で碁で活躍するという話です。様々な苦難って何だよと言うとここで書くのも憚られるレベルの話なので遠慮しますが、取り敢えず少女は四肢を失ってます。このあたり、この作品ではさらっと流されてますが、ホラー映画でも人を選ぶタイプのやつなんじゃないかとはちょっと思います。手が無いので元タイトル保持者を贅沢に代打ちに据えたり、逆に変に相談や八百長の疑念を抱かせないために口を使って指したりしつつ、現役のプロ相手に快進撃を続け見事プロ棋士としてデビューを果たします。

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プレデター:バッドランドより、下半身が欠損したアンドロイド「ティア」。この「盤上の夜」もそうですが、なんか変なフェチに目覚めそうな作品でした。

プロ編入後も、勝ちを重ねていく彼女は四肢がない代わりに盤上の局面を実際の感覚として感じられるようになり…という四肢の代わりに盤上の局面を感じる新たな感覚器官を得た棋士がたどる数奇な運命を描いた作品です。伝記のようでもあるその筆致は、まるで実在の人物について語られているようでサイエンス要素もさることながらフィクション力がかなり高いです。

 また、存在しない感覚器官をもつ棋士の対局の話を氷壁に挑むアルピニストに喩えるあたり、その過酷さを素人目に感じられるあたり比喩が上手い!

 単純にこの話がめちゃくちゃ大好きなだけなのですが、これだけでも読んで!と声を大にして言いたい短編です。SF好きは存在しない感覚器官の話をされるのは勿論大好物でしょうし、少年ジャンプやヤングジャンプを読んで育った方は、竜の紋章が浮き出ないかとか、自分の赫子(かぐね)のタイプを妄想したりしたと思うのですが、そういう心が中学生な方々にもぜひおすすめしたいですね。

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ダイの大冒険よりドラゴニックオーラ

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東京喰種より赫子

 さて、麻雀では牌が配られた瞬間に役が出来て上がりとなることを天和(テンホー)と言うらしいですが、この確率は33万分の1だそうです。つまり将棋や囲碁と違って麻雀ではどんな素人でも一回なら奇跡が起これば勝つ可能性があるということです。将棋や囲碁もこれ以上に低い確率、猿がタイプライターでシェイクスピアの戯曲を書き上げるくらいの確率でなら勝てるかもしれませんがまぁ厳しいでしょう。そんな可能性の世界に踏み込む短編も勿論あります。

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魔人探偵脳噛ネウロより。

 宗教法人の代表で都市のシャーマンと呼ばれる優澄、勝って優澄を治療したい優澄の元担当医、酒に溺れている節のある麻雀トッププロ新沢、統計・確率計算の天才でありサヴァン症候群の当山。

 ちょっと既に地下で行われる最大トーナメントみたいな趣ですが、実際は魔術を使う最強のシャーマンの麻雀VS残りの三者という感じです。序盤から語られる彼女の異様な打ち筋、何故彼女には牌が見えているのかという謎が残りの三者それぞれの目線で語られます。麻雀自体が狂ってないとできないような確率と意思の混在のような競技です。作中でも述べられていますが、まさに確率の中にある狂気に踏み込んだ短編です。この短編の中で滅茶苦茶好きなセリフがあるのですが、絶対麻雀で聴かないタイプのセリフなので是非気になる方は読んでみてください。そこだけややホラーしてました。

 ここでは紹介していませんが、他にも「かつて存在した計算機に解かれてしまったボードゲーム」で無敵を誇った実在の人物を描いた短編や、ラーフラを主人公にボードゲームの概念自体を描いた短編など絶対にこの本でしか感じ取れない世界がある!と自信を持って紹介できる作品です。

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宙に参るより、将棋を「解く」かもと言われている電子計算機「棋星」

 最近登山が趣味なのですが、何が良いかと言いますと登る前後、巨大に見えた山に自らの脚でたどり着いた実感があるからだと思っています。一方で昔からダムが好きで、つまりは取り敢えずスケールの大きい物が好きなのでしょう。

 数字や確率という際限なく大きい世界に有限のボードゲームから切り込んだこの短編集は、「取り敢えずデカいものが好き」「スケールを感じたい」方に是非おすすめしたい一冊です。

 

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「品行方正な理想の人物を演じる」というフェチの話〜カネタケ製菓さんの「ブックイーター」と「ストロベリー・ゴー・ラウンド」

 フェチの話をします。私は「ある目的のために誰が見ても立派な人物を演じて過ごす。」フェチです。なぜフェチに感じるかと言いますと、自分でも頑張ればできそうで、演じれば演じるほど素の自分が分からなくなりそうな恐ろしさが一つ。そして、何やかんやできっとボロが出て瓦解するだろうという自分にできないことへの憧れが一つです。

 創作物で見かけるようで見かけないシーンですね。割とレアな気がします。もし、同志がいればこんなシーンがある作品を教えてください。私が思いつく具体例で言うと森薫先生の「エマ」でエマと結ばれないことにヤケになったウィリアムが父や社交界が望む理想の貴族として振る舞うシーンが思い浮かびます。スマートな立ち振る舞いのウィリアムに惚れた子爵令嬢がちょっと相手が可哀想過ぎる感じもしますが…。

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森薫「エマ」より、こんな男が

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こうなって
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こうじゃ。

 ただ、惚れた相手に自分を良く見せようなんていうのは、上は小粋なレストランにエスコートしようから下は惚れた相手の前で屁をこかない様にしようまで多かれ少なかれ誰しもあるものです。そんな惚れた相手に合わせて自分をチューンアップする姿に人間としての理性と情熱を感じるのです。というか純粋に「演じる」という行為がお洒落ですよね。

 今回紹介するのは、自分の(理想の)相手を前にして、どうしようもない想いから演じる恋愛漫画、カネタケ製菓先生の「ブックイーター」と「ストロベリーゴーラウンド」です。

 

ブックイーター(全2巻完結済)

ストロベリー・ゴー・ラウンド(全1巻完結済)

 ブックイーターはある高校・大学のサークルで繋がった人物達による連作短編漫画です。グッと来た異性をゲットするために土鍋を買う高校教師、真面目すぎるバイトの女子高生を仕事に馴染ませるために宇宙人を自称するお兄さん、互いの家族を巡る傷の舐め合いみたいな恋愛を腐らせ2人など割と個性的な恋愛話が多いです。

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ブックイーター巻末より。

こんな感じ。田舎ばりに人間関係が濃い。f:id:sannzannsannzann:20250822233536j:image

土鍋カップル。女性の方がかなり独特の哲学の持ち主。

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共通の趣味でちょっと緊張を解すはずが軽く惚れられるメガネ。

 今回ブックイーターのなかで特に紹介したい短編がキリスト教徒、医者、肉食に一家言持ち」の変人が恋人の為に理想の自分を演出する「新しい皮を着て」です。

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焼肉屋カニバリズムの話をしながら告白してはいけない。

 顔がいい変人に惚れられたいと言うのは老若男女割とメジャーなフェチだと思うのですが、この話の主人公、朱実さんはあんまりグッと来ていない様で「この超変人は何故自分に惚れているのか?」と疑問を持ちます。実際問題「おもしれー男・女」が居たところで、お付き合いに向けて価値観をすり合わせて行けるのかは難しい気もしますので超理性的な判断だと思います。

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「割と普通な私のどこに惚れたの?」は当然っちゃ当然の疑問

 とはいえ、朱実さんのやることをやっている腐れ縁なのにお付き合いは無理というムーブは中々鬼畜な気もします。そんな訳で、スペックの高い変人真白さんが肉食うんちくに蓋をして婚活市場で引く手あまたな常識人の医者にクラスチェンジして全力で朱実さんを落とそうとするのが本作です。

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「変人のイケメンが私のために全力で普通のイケメンムーブしてくれてるのだが。」

 さて、打って変わって普通のイケメンムーブをしてくれる様になった真白さんは、焼肉屋カニバリズムデートから鎌倉精進料理デートに方針変換。プロが演じると食生活まで変わってくるんですね。

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会話からレストランまで変えてくる真白さん。

 でもやることまでやってるくらいには惹かれていた変人が、急に見もしらぬ他人みたいな振る舞いをする様を見せられて常識人な朱実さんは「別にその普通のイケメンは望んでない!」と伝えます。冷静に考えると「何考えてるか分からない。」への回答が「理想のイケメンを演じます。」なのキャッチボールになって無いので凄く真っ当な反応なんですが。百歩譲って「この想いが通じないなら、理想のイケメンを演じられるくらい本気だって分かってくれよ!」くらい?だいぶ行間読んでて大学入試の国語なら部分点も貰えなそう…。朱実さんファンキーな見た目以外は凄い普通の女の子なので、「まだ人肉の話してた頃の方がマシだよ!」と伝えた訳なんですが、我に返った男は自分の身になぞらえてツガイの来ない巣を作り続ける動物園のヘビクイワシの話をします。

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ヘビクイワシかあいそう。

 真白さんが朱実さんのどこに惚れてるかはあんまり分からなかったのですがとりあえず本気だということだけ分かったのでOKです。〜Happy end〜

 他の連作短編にも出てきては尖った変人ぶりを見せつける真白さんですが、結局誰にでも好かれるは特定の誰かに刺さるという訳ではなく、やはり素の自分を好きになってくれる、ありのままの自分を見てもらえるという恋愛の一番心地よい部分がここにあります。

 美味しんぼで喩えると、カッコつけてフランス料理のレストランにエスコートした後に本当の自分を見てくれとラーメンの屋台でラーメンライスを全力で啜った男いたじゃないですか?ラーメンライスの自分で居たほうが自然体で、そして自然体の自分を愛してほしいものじゃないですか?

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美味しんぼより。

とはいえラーメンライスの食べ方に名前を付けてるのは引く。

 演技の必要の無い恋愛という全チェリーボーイが憧れるシチュエーションが大好きな方にオススメです。

 さて、もう一作「ストロベリー・ゴー・ラウンド」はキリスト教系の女子校に通う通称「ぜらちん、くーやん、戦艦」の3人が慣れない恋愛に振り回される話です。

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手前で変なポーズしてる「くーやん」

黒髪の「戦艦」

おさげでメガネの「ぜらちん」

ズッコケ三人組

 ぜらちんは小学生の頃からの彼氏が居て、将来結婚しようと(主に彼氏が全力で)外堀を埋めています。くーやんは通学中向かいのホームで「趣味の園芸」とかを読んでいる男子が気になって旧軍の双眼鏡使ったりしつつ軽くストーカーしてます。

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ぜらちんと外堀を埋める彼氏f:id:sannzannsannzann:20250823003321j:image

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何やかんや知り合いになったストーカー相手の琴線に触れるくーやん。

 「植物とか樹形図」が好きとか言ったら周りに引かれるじゃんとかなり真っ当なことを言うストーカー相手に対して「フィナボッチ数列に従う植物」の話をするという満点回答を叩き出すくーやんも素敵なのですが、今回簡単ながらメインで紹介したいのは戦艦のあだ名を冠する三笠女史を取り巻く恋愛ですね。

 三笠さんはそんなにお固い訳ではないんですが、力強い雰囲気と名字から戦艦とあだ名されています。そんな戦艦は普段からモン◯ンなんかを一緒に遊んでいたちょっと間抜けなくーやんの兄「徳丸磯良」が実は頭が良かったことを知りギャップで軽く惹かれていきます。割と真面目に進路相談なんかをする中、運が良いのかなんなのか磯良君も割と戦艦のことを憎からず想っており夢の国デートに誘われるのですが…。

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こんなことってあるかよ。

 とんでもない性善説で動いている磯良君は大学の同級生達と戦艦を「俺が仲いい奴ら同士だし仲良くなるっしょ。」「進路で悩んでるなら先輩の話色々聴けたら良いっしょ。」と、悪夢の様な場をセッティングします。知ってか知らずかイケメン磯良に惚れている女性が2人いる所に高校生をぶち込むというのもなかなかの鬼畜ぶりです

 ただ、これもある意味磯良君が「戦艦のためを想ってやった。」「戦艦の前で格好をつけたかった。」という好意と駆け引きから来たものです。まぁ出力された結果は割と地獄なのですが…。陽キャ怖いよ。

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駆け引きが無いとこんな感じ。

 私は、駆け引き無しで好意を伝えてくる磯良君の、変化球投げまくったあと真っ直ぐ歩いて来てぶん殴って来る的な感じがグッと来るんですが「駆け引きが最初から無ければな。」と少し冷める戦艦の姿が淋しいです。この後は描かれていないのですが、戦艦が轟沈するのか生還するのか是非読んで想像して頂きたいです。

 さて、やっぱり演技も良いのですが素の自分をさらけ出す、受け入れてもらえるという関係性は良いものです。演技が演技じゃなくなるのも恋愛の醍醐味でしょうし。カネタケ製菓さんの作品、最近フェチを感じていない方にオススメです。

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今さら綾辻行人先生の「Another」を読んだ。

 タイトルの通り今さら「Another」を読みました。綾辻行人先生の本は昔、館シリーズ、殺人鬼シリーズ、囁きシリーズをあらかた読んだあとはあんまり触れて来なかったのですが、なんとはなしに読む本を探していたところ昔妻が読んでいたなとか妻が「人がピタゴラスイッチみたいな死に方するシーンがある。」と言ってたことをうっすら思い出したので今回手に取りました。息子がピタゴラスイッチのDVDを観ていたから印象に残っていたのかもしれません。

 

綾辻行人先生のAnother、めっちゃ有名なのに読んだこと無かった。

ちなみに漫画版もあるので小説苦手な方も手に取りやすいです。(全4巻完結済み)

 本作は、ある事情で東京から母親の実家のある町、夜見山市に引っ越してきた中学生の榊原恒一君のお話です。なんか物語が始まる前から町の名前が既に不吉なのですが…。榊原君は転校早々持病の肺気胸(肺に穴が開く病気)が再発して1日も登校することなく入院することに。暇を持て余した榊原君はホラー小説が好きな趣味を同じくし榊原君のことを「ホラー少年」と呼んでくる看護師の水野さん眼帯をした不思議な少女ミサキさん、亡き母の妹であり夜見山で祖父母とともに榊原君と同居することになった芸術家の叔母、怜子さん等と交流を深めて行きます。ホラー&ミステリーなのにゼロ年代のギャルゲーバリにヒロイン(候補)が出てくるなこの小説。


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漫画版Anotherより叔母の怜子さん
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割と新米看護師の水野さん

 さて、そんな感じで様々な人々と交流を深めていく榊原君ですが彼の通う夜見山北中学校には守らなければならない決まりが多々ありました。それは「屋上にいてカラスが鳴いたら校内に戻るときは左足から帰ること」「3年生になったら裏門の外の坂道で転んではいけない」「クラスの決め事は必ず守ること」と言ったものがあり、この決まりを守らないとどうなるかと言うとだいぶ死ぬ確率が上がります。

 過去に起きた事故から、数年ごとに起こる「ある年」になると夜見山北中学の呪われた三年三組は毎月人死にが出ることになったのです。これを防ぐためにクラスの決まり事がある訳ですね。

 私がかなり好きなのはこの呪いに対してあんまり原因究明がはかられたりしない所ですね。よくあるホラーものだと、何故呪われているのか、どうすれば解決できるのか?ひたすら文献や聞き込みで調べた結果、もうどう見てもこの山奥にある呪われた祠のせいじゃん!みたいな祠に優しい登場人物が自らを捧げた結果、犠牲は出たけど呪いは止まった!みたいなシナリオありがちじゃないですか?


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映画「呪詛」めっちゃそんな感じの祠があった名作。

Anotherは冒頭に呪いの原因らしきストーリーが示されますが、その原因で亡くなった人物が延々とクラスを呪ってるみたいな描写は無く、亡くなった後に行ったとある儀式でなんとなーく三年三組が呪われたのかも?位でさらっと流されます。何故さらっと流されてるかというと遥か昔からお祓いをしたり、クラスの名前を3組からC組にしたり教室の場所を変えたり色んな対策を取ってきたから、そしてあんまり対策が功を奏していないからに他なりません。功を奏していないとどうなるかというとかなりの力技で死者が出ます。具体的にはピタゴラスイッチみたいな偶然で人が死んだり、エレベーターの天井が落ちたり、車が突っ込んできたりします。呪いや怨霊の姿は見えないのに殺意が高すぎる。


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うちの息子も大好きなピタゴラスイッチf:id:sannzannsannzann:20250808202230j:image

デスノートより夜神総一郎さん。

こんな感じで突っ込まれたら対策のしようがないよ!

 そんな対策があんまりうまくいっていない夜見山北中学校はせめて何とか死者数だけでも減らせないかと担任教師と対策係で申し継がれてきた様々な対策を行っています。が、こんな恐怖のクラスに担任はあんまり関わりたく無いので中学生が頑張って考えた対策で何とかしようとしてますので、結果、割と頑張って考えられていたルールの穴が随所で突かれてガッツリ死者が出ることになってしまうのですが…。中学生のガバガバルールのせいで!と言うのは簡単ですが意外とちゃんと守られていたんですよ。ただ、転校初日からいきなり肺気胸で入院する男の子なんていうイレギュラーな存在がいるとどうしてもルールの徹底は難しいですよね…。

 主人公の榊原君はそんなルールもつゆ知らず微妙にクラスで浮いている様に見えるミサキさん(見崎鳴)さんと交流を深めたり、自分共々微妙にクラスで浮いていることを利用して一緒に中学校をサボったり人形館に行ったり図書室で調べ物をしたりします。ギャルゲーだとしたらもうだいぶミサキルートに突っ込んでいってる感じです。ちなみに父親はインド出張に行っていて祖父母もそこまで夜遊びに厳しすぎる訳でもなく、やっぱギャルゲーじゃないですか!死者が出続けるクラスの中で謎の多いミサキさんと青春しつつ生き延びることができるのか!と言った趣で、ミステリー・ホラーなのにボーイミーツガールも入っているというかなりの欲張りセットな作品となっています。

 見どころは先ほど述べた「こんなん止めようが無いやん。」ってくらい殺意の強い呪いと「そんなことやったら絶対誰か死ぬやん。」ってくらい軽率に見える行動(例:皆で登山)、そんな殺意の渦の中でそれすら気にならないくらい面白いメインの謎解き要素ですね。めっちゃ派手に人が死ぬし、ツッコミどころと言っても仕方ないくらいのシーンはいっぱいあるんですが匠すぎるストーリーテリングのお陰でメインの謎が気になって仕方ないというミステリーの傑作だと思います。先述のキャラ萌要素も相まってそれは漫画化、アニメ化とメディアミックスしまくるはずですわ!

 

Another

Another

  • 高森 奈津美
Amazon

アニメ版

 映画版

 ちなみに本作は「あの夏休み、ミサキさんが出会ったもう1人のサカキとは?」から始まる「AnotherエピソードS」や「あれから3年後、また呪いが幕を開ける!」「Another2001」など、「今度のAnotherはハワイで大騒ぎ!」ばりにしゃぶられて尽くしてる感があります。私も是非続きを読む所存です。

 

AnotherエピソードS

表紙のミサキさん可愛いよ。

まだ読んでないが榊原君の後輩たちも頑張ってください。

 この夏、緩い呪いに飽きてきた方、問答無用に死ぬ理不尽さが大好きな方、是非本作を読んでみてはいかがでしょうか。ついでにどのヒロインが好みだなぁ〜とか思いながら読むことを推奨します。そうキャラ萌えしながら読んでめちゃくちゃ楽しかったのでオススメです。

 

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三十路からの再生〜鈴木みそさんの「限界集落(ギリギリ)温泉」

 もう30半ばになろうとしているのに、どういう大人になろうかと考えることが増えてきました。社会人としてあんまり働いてきた実感は無いんですが、ゲームは割とやってきた気がしますので、働いていると自分のパラメータが見えるように感じます。昔は自分の知力とか体力のパラメータが高く感じていたんですが人生も中盤になってくると体力も落ちて、知力は人生も2章に入るとそうでもなかったということに気が付き、逆に大して重視して来てなかったコミュ力が仕事の円滑化に一役買っている現状を見ると、人生何が起こるか分かりません。私は今、職場では水戸黄門御一行のうっかり八兵衛のポジションに居ます。うちのボスにとって不幸なのは助さん格さんが居ない所ですね。

 昔は助さん格さんになれると思っていたうっかり八兵衛も人生はまだまだ続くので、スキルアップを図ってうっかり十兵衛くらいにはなりたい所です。それに自分のうっかり具合を棚にあげて日々趣味という名のお団子を頬張ってこれはこれで良い生き方だよと誤魔化して行きたい所です。まぁつまりはようやく自分との付き合い方が分かってきた気がして中々楽しいです。

 さて、今回紹介するのはダメな大人達の再生を描いた鈴木みそさんのマンガ「限界集落(ギリギリ)温泉」です。

(全4巻完結済み)

 ギリギリ温泉は、下田市限界集落にある借金まみれの旅館「山里館」、自治体に買い上げられ廃業を待つだけの旅館を自殺するする詐欺でやって来たメンタル不安定な有名コスプレイヤー、逃げてきた元ゲームプロデューサーそしてコスプレイヤーを追ってきたおたく達が再生する物語です。

 旅館の主人は妻と過ごした旅館が自治体の老人ホームとしてハコモノ行政の塊みたいな施設になるよりは小説で一発当てて旅館を守ろうと超現実逃避を決め込んで居ます。

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紛うことなきダメ人間だよ。

 主人公の溝田は炎上したゲームプロデューサーとして都会から逃げて下田の洞窟で地元の農家の方々から野菜や果物を失敬して暮らすという残留軍人みたいな温泉に釣られて現実逃避している親父を助けることになります。

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昔取った杵柄でダメ親父を助ける溝田

 借金を返し山里館を盛り返すには勿論営業を初めて閑古鳥を追い出すしか無いのですが、伊豆と言いつつ修善寺なんかの生きてる観光地ではなく、高齢者しか居ないまさしくタイトルにもある通り、ギリギリの土地柄であって客が来る可能性はほぼ無いに等しい状況です。

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限界な土地

 そんな土地だからまぁ借金を返すあてなんてまるで無いのですがのらりくらりと貸主をだまくらかしているうちに、人生が上手く行かなる都度逃げてきたメンタル限界コスプレイヤーや私生活は全部そのコスプレイヤーにぶん投げている限界オタク等ダメ親父、夜逃げプロデューサーに負けず劣らずのギリギリ人間たちが何の因果か伊豆に集い始めます。

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絶対死ぬ気ないだろとか言ってはいけないf:id:sannzannsannzann:20250713212038j:image

一周回って行動に起こす辺り偉く感じる。

 溝田は壊れたお姫様、お姫様の追っかけのオタク達、妙に嘘に長けた器用な小学生、見た目だけは誠実な宿屋の主人のダメ親父などおおよそパーティーを組むには不安のある人間を使って山里館の復興を目論むというのが大筋のストーリーです。

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不安しか無いパーティー

 「観光資源も何も無い限界集落は静かに滅びるしかないのか?」というのはこのマンガが描かれた2009年頃より余程深刻になっていますが、「何も無い土地だからこそストーリーを作る必要がある。」という現代にも繋がる町おこしの本質みたいなものが描かれているのは流石の予言ぶりです。細部はネタバレになりますが、Twitterの政治利用何かは当時は考えられても居なかったように思います。逆にニコニコとかだったか?何れにせよ余程某7/5より未来を見ている。

 さて、この物語で特に私が好きなのは持たざる者達が、自らを受け入れて持てる者に対抗する流れですね。先も述べた通り、主人公の溝田は敏腕プロデューサーでありながら、炎上したゲーム開発から逃げて伊豆に落ち延びた人間であり、周りの人間もどっこいどっこいのダメ人間ですが、鶏鳴狗盗と申しますか、長年生きてくるとどんなダメ人間でも長所の一つや二つはあるもので、どんなに悲しい人生でも生きている限り人生は続くので、短所を認めつつ長所を如何に活かすかが重要になってくる訳です。

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逃げた自分

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逃げなかった今回

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オタクも
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嘘つき小学生も自らを受け入れる。f:id:sannzannsannzann:20250713220110j:image

何なら敵も成長する。

 そういう意味ではだましだまし旅館にやって来るオタクから搾取しようとするのではなく各々が自分自身と向き合い強みを使って、客がずっと続くような魅力的な町に、宿にしようとするあたり、登場人物がダメ人間しか居ないのに超王道ストーリーしていて良いです。

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ドリフターズで信長も反省してたしf:id:sannzannsannzann:20250713214742j:image

地上最強の男もこう言ってますし。

 逃げてきた男&女たちと漠然と生きてきたオタク達が自分のこれまでの人生を総括し、ステップアップしていくというこの物語は、笑って読んでいた筈なのに「俺は真面目に自分の人生を生きているのか?」と突きつけられます。結構つらい。

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ハチミツとクローバーでも竹本がずっと「あなたはだあれ?」って言われてたし…。

 天才が努力してるマンガとかあんまり感情移入できないと思いますが、このマンガ滅茶苦茶ダメ人間達の再生の物語なので、「このダメ人間達自分よりよほど偉い。」と思った時点で、ちょっと自分を棚に上げないと読むのが辛くなるくらいの王道ストーリーですがともあれオススメです。

 ただし一点注意が必要なのが、その描写です。陰キャやオタクが集まって問題解決☆」みたいなテンプレがようやく生まれた頃に描かれた本作は古いオタク描写がかなり鼻につくかもしれません。

 ただ、作者の鈴木みそさんと言えばkindle等の電子書籍サービスに早くから目を付け、漫画家の印税や版権についてのこれからを整理したマンガ「ナナのリテラシー」が有名で、10年ちょい前のマンガなのに正確に現在の電子書籍サービスの潮流を当てているあたりかなり時代の最先端を行っていたマンガでした。

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ナナのリテラシーより作者本人

ギリギリ温泉もTwitterが出始めた頃の話であり、何なら4年くらい前にあの「電車男」が流行っていたことを考えると当時としては超最先端だったんですよ。

 

 電車男本編って電車化してないんだ…。

 推し活なんて綺麗な言葉も無く、オタク≒蔑まれる存在で隠すかバリバリオタクファッションでいるかの二択だった汚いオタク達の時代描写を含めて楽しんでいただきたいです。

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6/24は全世界的にUFOの日です〜秋山瑞人さんの「イリヤの空、UFOの夏」

 本日6/24は全世界的にUFOの日です。何故なら1947年に実業家のケネス・アーノルド氏がレーニア山で皿型の空飛ぶ円盤(UFO)を目撃したためです。(ケネス・アーノルド事件)また、同年7月にはニューメキシコ近郊のロズウェルにて空飛ぶ円盤が墜落したとアメリカ軍が発表し、後に観測気球だったと訂正しています。(ロズウェル事件)

 私のようなスペースピープルには常識なんですが、夏はやっぱりUFOの観測にぴったりな季節なんですよ。ただ、昨今の怪談で怪異ではなく「ヒトコワ」が流行している様に、超常現象系もなりを潜めているのが悲しいところです。「本当は人が一番怖いんだよね…。」みたいなの求めてないんだよ。そんなん小説読まなくても働いていれば分かるんだからよ!

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大抵の「ヒトコワ」より「東京都北区赤羽」のペイティさんの方が怖いんだからフィクションの中くらいUFOや妖怪とイチャイチャさせてくれよ!

 さて、心がねじ曲がって捻くれているので、皆が推していると逆向きに走り出したい性分ですので今日は敢えて篠田節子さんの「ロズウェルなんか知らない」の紹介をしようと思ったんですが、「町おこしのためにUFOを利用して頑張る青年団(20代後半〜30代後半)という構図がある地方」はもう超常現象よりも少ないのではないかと思い、ちょっと別の方向でセンチメンタルな気分になったので素直にビッグウェーブに乗ります。

 

UFOで町おこし系小説。面白いよ。

 本日紹介するのは秋山瑞人さんの不朽の名作「イリヤの空、UFOの夏」です。

 

(全4巻完結済み)

 「イリヤの空、UFOの夏」は中学2年生の夏休みに新聞部の先輩と近所の米軍基地を監視して未確認航空機の存在を明らかにしてやると山ごもりしてついでにタヌキを餌付けしたり、なんか夜中の野球場横でユサユサ動いている車に取材と称して爆竹投げたりと今は無い青春の1ページを送る浅羽直之君(14)を巡る物語です。

 そんな数値を青春に全振りした結果、宿題はおろか人間らしい生活すら放棄した夏休みを送っていた浅羽は、夏休みの締めくくりに忍び込んだ深夜のプールでタイトルにもなっている少女イリヤと出会います。浅羽は泳ぎ方も分からない、寡黙な美少女イリヤに一晩だけ泳ぎ方を教え、夏休みは終わったけど青春のおかわりはこれからや!と思ったのも束の間、社会性が無い怪しい感じのお兄さんに声をかけられ、ついでにちょっと怪しいお兄さんのお友達のメン・イン・ブラックみたいな黒服の方々に囲まれて帰宅することになります。

 そんなけったいな夏休みが終わったあと、宿題を出していないことを暴力的なクラス担任河口泰蔵三十五歳独身と一緒に思い出したりしてる間にプールで出会ったイリヤは転校生として浅羽のクラスに転校して来ました。ただし、ラブコメ的な雰囲気よりは背後にメン・イン・ブラックの存在を常に感じさせて。

 本作をボーイミーツガール、セカイ系の古典的名作、とか言い始めるとまぁそれで紹介が終わってしまうのですが実際その通りです。中2で接種したら多分取り返しがつかないと聞いたことがあります。

 乾くるみさんの名作「イニシエーションラブ」が恋愛ごっこが恋愛に至るまでの過程を描くとすれば、本作は主人公浅羽が少年から男になるまでのイニシエーションです。映画ならスタンド・バイ・ミーか。

 

名作だけど「最後の1ページで!」みたいな持ち上げられ方勿体ない。

本作には少年が男になるために必要なものが全て詰まってます。新聞部、暴力、原チャリの盗み方、映画デート、文化祭、フォークダンス、大食い、死体洗い、戒厳令下の街、家出、逃避行、屋根に登って食べるカップヌードル、そして別離。

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田島列島子供はわかってあげない」より

 私含め多くの人間が諦観と妥協とともに大人になっていく中、最後まで若者らしく足掻き続ける浅羽は羨ましく眩しい存在です。また、若く足掻き続ける浅羽と浅羽の目から見る登場人物達、それは東北弁の抜けない歴史教師であったり、怪しい保険医、理髪店を営む両親、浮浪者にメン・イン・ブラックな連中等、かつて浅羽だったかもしれない、見た目よりもずっと真剣に生きている大人達の対比が際立ちます。

 作中の子供らから見て「本当にこいつらまともか?」と思うような社会や組織が描写されてる作品あるじゃないですか?お前らだぞNE〇V。この作品ではメン・イン・ブラックみたいな奴らがちゃんとメン・イン・ブラックしてるのが非常に良いです。まぁデートを出歯亀したり、恋人みたいな何かを見つかったりしますが…。

 ただ、注意して頂きたいのは本作は7割くらいはコメディと思ってください。コメディの含有率はかなり大きいのですが、それが非日常との対比になっており、特に時たま「ヒトコワ」より「陰謀」の方が怖い!と思わせてくれるのが白眉です。アンビリーバボーとか90年代〜00年代を青春として生きてきた世代には懐かしさが勝るかもしれませんが。そんな感じで昨今凋落気味な「陰謀」なシーンを盛り上げてくれるので、ちょっとくらいしつこいコメディ描写や時代を感じさせる描写も気にせず最後まで読んで頂きたい。ちょっと温度差凄いけどサウナみたいなもんだから!

 代謝が落ちた人間はランニングができずに結局サウナに頼ることになります。この世に生きる島耕作以外の青春や反抗ができない大人はラノベを読み少年が男になる瞬間に思いを馳せる事でしか青春を追体験できないのではないでしょうか?いたずらに最新作のラノベを漁って好みの作品を探すのではなく今こそ古典を、ゼロ年代の波を感じる時では無いでしょうか?

 代謝と読書量の落ちてきた私みたいな三十代の方々にオススメです。

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自己肯定感が上がります。