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好きな作家、本、マンガについて紹介

嘘を吐くならこんな風に〜田中現兔さんの「嘘つきユリコの栄光」

 人の顔色を伺って咄嗟に嘘が出るタイプです。バレたとき一番信用を無くすやつです。嘘も方便だと思っていて、誰も不幸になってないならいいやと考えたりします。ただ良くない癖だとは思っているのでちゃんと意識して直していきたい所存です。一番最近ついた嘘は、自分に対する慰労会でお店の名物である巨大かつプリップリのエビフライを前に「エビめちゃくちゃ好きなんですよ〜♪」って言ったことです。大嫌いな海老はお店の調理が良いのか、ビールのアシストがあったからなのか嘘がバレない程度には食べられました。

 さて、嘘をついてそしてバレてのっぴきならないことになったこと、ありますか?冷や汗が垂れるような瞬間、味あわずに済むのならそれに越したことはありません。しかし、そんな窮地を見事にくぐり抜ける様も傍から見る分には悪くないです。仕事でもたまにあります。こいつ嘘八百並べてるのに良くやってんな〜となる瞬間。こっそり目配せで上手いことやってんなって伝えると下の方でサムズアップしてくる感じのやり取り、痛快ですよね。

 そんな痛快に嘘を吐く漫画といえば最近完結した田中現兔さんの「嘘つきユリコの栄光」です。

(全4巻、完結済み)

 

 この物語は超一般人な中学生、小石川ユリコさんが持ち前の負けん気を発揮して嘘に嘘を重ねて中学生活の中心、常に衆目のトップに立とうとする話です。彼女は自らを脇役と自覚しつつも脇役として主役を食い、トップに立ちたいと常々考えていました。といっても、思いだけが先行していた彼女は小学生の頃に嘘をつきすぎてだれにも相手にされなくなるという過去が有りました。


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ここから挽回して、中学では普通に勉強や運動で頑張るぞ!っと志を新たにしたところ、何故か「ふーんおもしれぇ女」とか言いそうなイケメンがぽっと出で登場しました。

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ぽっと出のイケメン、満月院家康君

 こんな奴居たら勉強や運動頑張ったところで目立つことなんかできねぇじゃねぇか!と絕望したユリコさんはあろうことかクラスの前で自身がイケメン御曹司満月院君の婚約者であるとのたまいます。
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もちろん周囲は真に受けませんが、自己紹介終了後、イケメン本人含めクラス全員から問い詰められます。「これ謝っても滅茶苦茶痛い奴として3年間終わるやん」と気づいたユリコさんは覚醒します。
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覚醒シーン。
 ユリコさんは嘘をつき通して平穏な、そしてスクールカーストのテッペンを捕れるのか?という訳ではあるんですが、それとは別にイケメンにも目的があります。彼は大グループの御曹司ということで身内に火種を抱えており、「おもしれぇ女」よりはむしろ味方になってくれる有能な「おもしれぇ」奴を欲していたのでした。


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嘘を起点にしたバディと信頼。

 そんな利害が一致した彼女らが如何にして栄光を掴むのか是非読んでいただきたいです。

 個人的に好きなのは、ユリコさんは嘘をついている、というよりは演技で切り抜けているという点ですね。どういうことかと言いますと吐いた嘘自体は違和感の塊なのです。違和感の無い綺麗な嘘をつくこともあれば、冒頭の婚約者宣言を皮切りに、ここぞというところで誤魔化すために変な嘘をついてしまうことが多々あります。


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中学生でも騙されない感じの嘘。

 そこをカバーしているのが、覚醒した彼女の頭の回転の良さと日頃からの綿密な準備、そして演技力です。あくまでも嘘はどこから聴いても嘘でしかなく、それを真実たらしめているのは彼女の演技です。

 
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ベクトルが違えば大詐欺師になりそう。
 
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負けたくないという思いがすぐ攻撃に向く。

特に作中で、「パチッ」という音ともに入る彼女の嘘・演技・覚醒スイッチは、「おっ、今から渾身の演技やってくれるんだな」という合図みたいで良い演出です。

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覚醒スイッチ。
 日常で絶対につかないタイプの嘘を彼女の演技がどうごまかすのかは見ものです。

 作中では、クラスメート、家康君の義理の兄やその息子、果ては自分の母親までが敵として立ち塞がることになります。自らの進退に関わるような嘘ばかりついているので避けられないことではあるのですが。

 
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様々な敵。

 そんな敵相手には連戦連勝とはいかず、流石に苦戦するシーンもあるのですが、嘘を吐かれた相手がことごとく「ふーんおもしれぇ女」状態になっているのはちょっと愉快ですね。

 
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おもしれぇ女状態。

 彼女が吐く嘘は嘘でありながらも魅力があり、それ故に他人を惹きつけていきます。世が世なら天下を取れる才です。退路として始まった彼女の嘘がどこまで突き抜けていくのか、確かめてみるのもいいかもしれません。