読んだら寝る

好きな作家、本、マンガについて紹介

非日常の中の日常〜宮野優さんの「トゥモロー・ネヴァー・ノウズ」

 最近忙しくていまいちダラダラできていません。半年くらい会社の中で割りと専門的な研修を受ける機会に恵まれた代わりに多忙な毎日を送っているためです。ただそろそろ1ヶ月くらい経とうとしていて、慣れてきた感じはあります。何が言いたいかと言いますと、人間は慣れる生き物だということです。体育会系な部活の理不尽さに巻き込まれた時も、泥に塗れる研究をしていたときも、独特な社風の会社に入ったときも、なんやかんや早ければ1週間、遅くとも1月経てば生活が板についてくるものです。


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銀と金より慣れきった人。

 

 さて、多忙と言いつつ流行りの作品くらいは抑えていきたいです。読書にも旬がありますからね。5年遅れくらいで昔流行ったビジネス書読むのも楽しいですが。

 そんな感じで流行に乗るべく、先々月は流行りかどうかは別としてゴリラ裁判の日を読み、先月はアトラス5を買ったものの翻訳物が少し苦手で他の作品と継続して読み進めています。そんな中、完璧にジャケ買いしたのが、この本、トゥモロー・ネヴァー・ノウズです。

この本は、突然ある1日がループし始めたという世界観を同じくする連作短編集です。冒頭の短編は、娘が未成年に理不尽に殺された母親がその殺意を鈍らせないままに成人した犯人を殺す話です。

 さて、母親は首尾よく憎い相手を殺し、警察に自首し、様々な供述をしたのはよかったものの、1日が終わり留置所で眠りにつき、目が覚めるとそこは知らぬ天井ではなく、慣れ親しんだ自宅でした。テレビは殺しを企んだあの日と同じニュースを放送しています。殺しは夢だったのかと思いながらも再び荷物を持って復讐に赴く主人公、首尾よく殺し、自首し、眠って起きるとまたも慣れた天井。さて、どうやら世界はこの日をずっとループしているようです。

 

Q自分がループしたと気づいた主人公はどうするのでしょうか?

Aループが急に終わったら殺人が完遂されないので毎日殺しに行く。

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ジョジョ五部より死に続ける人。

言われてみるとそういう結論に至るのかもしれないですね。憎くて仕方のない相手が生き延びられる可能性がある限り殺し続けるという、ある意味ループに縛られた生き方をすることになる訳ですが、それも自分以外にも次々とループに気づく相手が出てきて若干様相が変わってきます。

 他にも世界が1日をループすることが当たり前になった結果、スポーツ選手は自らの体を鍛えることができなくなり、技術の向上を目標にシフトしたり、学校はループするならと青少年を襲撃しにくる犯罪者から守るために武装をしたり、警察はメモも残せない世界で記憶を頼りに犯罪者を無力化しようと努力します。非日常が日常と化した際の日常の切り取りが秀逸な作品です。あくまでループする世界の話なのでなぜループが起きたのか?ループは終了するのかという世界の設定にはあまり深く切り込まれません。しかし、それが理不尽な世界の変革に対応する一般の人々という感じがして非常に良いです。こんな世界になったらというifがきれいに描かれていて好感が持てます。

 ループものが好きな方、非日常の中の日常が好きな方にはおすすめの作品です。