読んだら寝る

好きな作家、本、マンガについて紹介

あの頃の女子って何考えてたんだろう?〜豊島ミホさん

 私は田舎の観光地で生まれ、小学生の頃はとりあえず鉄馬(竹馬の鉄バージョン)に乗っていれば満足で、落ちてる枝を彫刻刀で削って槍を作ったりと蛮族の様な生活をしていました。中学に上がると仲の良い男友達とつるみ延々とマンガ、小説を読みプレステ2三國無双をする毎日でした。おかげで高校に上がる頃にはクラスの2/3が女子であったのに女子とどう接すればいいのかわからず、おそらく同性との自然なやり取りと比較してかなり不自然な対応をしていたことと思います。恋愛小説や恋愛マンガは好んでいましたが、そこは物語、デフォルメされた女性像はクラスにいる女子たちと乖離が著しく、異性はよくわからんと思いつつ高校生活を送りました。結局3年間、まぁ勉強に部活に忙しいからいいやと問題を棚上げにし続けました。大学に進学したあとは、高校とは逆にほぼ9割が男の工学部に身を置き、気楽な生活を送っていました。そんなとき、なんとはなしに手に取ったのが豊島ミホさんの本でした。

豊島ミホ、底辺女子高生

 この底辺女子校生は秋田の進学校で寮生活をし、早稲田大学に進学して小説家となった豊島ミホさんの高校時代を描いたエッセイです。この本の中で作者の豊島さんは一人称が「オラ」なのは女子としてどうなのかと悩んだり、なんとなく2年生のクラスで自分が底辺に感じて東北から大阪まで家出したり(そして結局両親に捕まったり)、電車の中で話す先輩高校生ふたりのちょっと面白い会話に耳を澄ませたりしています。これが一般的な女子なのかは横に置いておいて、あぁ女子も大して男子と変わらないんだなと強く感じました。また、ちょっと変わったエピソードに加えて豊島さんご自身で描かれたイラストが挿絵として多数収録されています。もちろん豊島さんは小説家としてデビューされた方でプロのイラストレーターではないのですが、「こういうイラスト、クラスの女子が手紙に描いて回してたわー」となるような雰囲気のイラストがこのエッセイに彩りを与えています。もしかしたらこの本は私がイケてない高校生活を送っていたからこそ感情移入してしまうのかもしれません。イケてなかった方にオススメですし、イケてた方もイケてない下々の人々が何を考えていたのか知れて面白いかもしれません。

 エッセイ以外だとどんな小説があるかと言いますと、少し長いですがリテイク・シックスティーンは高校生の内心描写が卓越していて素敵です。

 この本は、高校のクラスの中に一人、精神のみタイムリープしたと言い張る女子がいて、当然のように痛い子が居る…という扱いを受けます。しかし嘘にしてはややディティールが細かく、そういう設定で高校デビューしたかったのか?それとも他に目的でもあるのだろうか?と中々に気になる展開の高校生活の話です。

 個人的に良いなと思った点は、この本を読むと、こういう変なことを言う、する人間が中学高校だとクラスに1人くらい居た気がして昔に想いを馳せてしまう点です。仮に居なかったとしても、変なやつが居たifとしての高校時代が巧く描写されていて、ある意味変なやつの居る教室を疑似体験できると思います。また逆に、成人した今の記憶を持ったまま高校に戻ったら何をしたいか?という良くあるような妄想としてタイムリープしたと言い張るちょっと変な奴に着目して読んでみても面白いです。

 豊島ミホさんは先に述べたように、少女から大学生くらいの女性の内心描写が非常にリアルに感じられる作家だと思います。そんな豊島ミホさんの小説の中で特に好きな本がこの日傘のお兄さんです。

 この本は表題の日傘のお兄さんを含む短編集です。この表題作は昔遊んでくれていた日傘を差していたお兄さんが平たく言うとロリコンで、ネットに書き込みされていたり危険人物として話題になっており、それを知った主人公の女の子がお兄さんと再会して…というお話です。軽くお兄さんとの逃避行めいたお話となります。

 お兄さんと主人公に感情移入しながら読むと息苦しい生活の中でのほんの少しの美しい時間のように感じられます。特に主人公の内面が細かく描写されているのでそういう風に感じながら読むことでしょう。しかし現実には中学3年生の女の子を連れ回す危険人物として逮捕されてもおかしくないような状況です。子供の頃正しいと信じて疑わなかったことが歳を経ると正しく無かったのだと気づいた経験はいままでありませんでしたか? 

 私が中学生の頃にこの本を読んだ時は、お兄さんとのやり取りやロリコンの描写が可笑しく描かれていた点と、結ばれない恋愛のような面にばかり惹かれていました。しかし、大人になったと実感した今読み返すと全く別の面が見えてきます。そういったいつ読むか、どういう目線で読むかという楽しみ方のできるのは稀有な本だと思います。

 創作物であるので殺人鬼の内面を描こうが、詐欺師を描こうが全く構わないのですが、未成年を巡る犯罪めいた行為に一切意識がいかず、主人公達に感情移入して読んでしまうというのも筆力の為せる業ではないでしょうか。

 ただし、作者の豊島ミホさんが読者への影響等を考慮し現在電子書籍ストアでの取り扱いは無いため興味を持たれた方は紙での購入をご検討下さい。

 他にも様々な大学生の日常を描いた短編集である神田川デイズや、

 神田川デイズ、童貞3人のゲリラ漫才が好き。

 オリコンチャートのミュージシャンの悲喜こもごもを描いたカウントダウンノベルズなど全体的に若年層を描いた作品が多いです。

カウントダウンノベルズ、アイドルから中堅のバンドまでオリコンに関する想いを描いた作品

 高校生のとき何を考えていたかなんてとうに忘れてしまった方も、是非豊島ミホさんの本を読んでなんとなく昔に思いを馳せてみてはいかがでしょうか?